イギリスEU離脱と中国の計算
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月26日 19時35分
イギリスとの貿易は薄熙来が強化した――ニール・ヘイウッド殺害事件と関係
かたや、イギリスと中国。実は近年、中英貿易協力を強力に進めてきたのは、何を隠そう、あの薄熙来だった。
2004年、遼寧省の副書記&省長から中央行政省庁の商務部部長になった薄熙来は、2007年11月の党大会ではチャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員9名)入りを果たそうと野心を抱いていた。
ところが2007年2月に父親の薄一波が逝去。江沢民に圧力を加えていた薄一波がいなくなれば、江沢民としても危険な薄熙来をチャイナ・ナイン入りさせることはない。そこで重慶市書記に「島流し」になったわけだ。
しかし2007年の党大会におけるチャイナ・ナイン入りを目指していた薄熙来は、商務部部長になるとすぐ、活発な貿易活動を展開し始めた。
そこで目をつけたのがイギリス人のパウウェル卿だった。
パウウェル卿は『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』で詳述したように、サッチャー首相やメージャー首相のPS(Private Secretary、個人秘書)であるとともに、「英中貿易協会」の主席だった。薄熙来はパウウェル卿を通して中英貿易の基礎を強靭なものにしたという貢献をしている。
問題はパウウェル卿がMI5(情報局保安部)やMI6(情報局秘密情報部)など、諜報機関と関係していたため、パウウェル卿と親しかったビジネスマンのニール・ヘイウッドが巻き込まれて、薄熙来の妻・谷開来に殺害される結果になったことだ。
ただ、このような「事件」はあったものの、その後の中英貿易の強化には大いに貢献した。
そんなわけで、イギリスがEUから離脱しても、イギリスはますます中国への経済依存度を高めるだけで、中国がEUとの距離をメルケル首相を通して強化していれば、中国は漁夫の利を得ることになる。
24カ国にAIIB新規加盟意向を取りつけた中国の思惑
たしかにロンドンの金融街シティを媒体として、世界金融の中心をウォールストリートから北京と上海に移そうとしていた中国の目論みは、イギリスのEU離脱によって挫折する可能性を孕んでいる。ようやく人民元の国際化に向けて突き進んできた中国にとっては痛手ではある。
そこで中国が次に打って出た手は、AIIBの加盟国を増やすことだった。
これまで57カ国が創設メンバーとなっていたのだが、6月25日に北京で開催されたAIIB第1回年次総会において、新たに加盟の意向を表明した24カ国の代表が総会に参加していることをAIIBの金立群総裁が明らかにした。
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