地べたから見た英EU離脱:昨日とは違うワーキングクラスの街の風景
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月28日 16時5分
こうした人々の苦悩はコラムニストのスザンヌ・ムーアが代弁していたように思う。
離脱を支持する人の気持ちがわかってしまうのだ。(中略)「古いワインのような格調高きハーモニー」という意味での「ヨーロッパ」の概念はわかる。が、EUは明らかに失敗しているし、究極の低成長とむごたらしい若年層の失業率を推し進める腐臭漂う組織だ。ここだけではない。多くの加盟国で嫌われている組織なのだ。
それに、自分なりのやり方でグローバル資本主義に反旗を翻すためにも、私は離脱票を投じたくなる。が、二つの事柄がそれを止める。難民の群れに「もう限界」のスローガンを貼った悪趣味なUKIPのポスターと、労働党議員ジョー・コックスの死だ。(中略)だが、ロンドンの外に出て労働者たちに会うと、彼らは全くレイシストではない。彼らはチャーミングな人びとだ。ただ、彼らはとても不安で途方に暮れているのだ。それなのに彼らがリベラルなエリートたちから「邪悪な人間たち」と否定されていることに私は深い悲しみを感じてしまう。
出典:Guardian:"What does this vote mean if one feels utterly powerless in every other way?" by Suzanne Moore
労働党左派もこのムードを感じ始めたから、潔癖左翼のジェレミー・コービンでさえ「移民について心配するのはレイシストではない」と言い始めたのだろう。オーウェン・ジョーンズらの左派論客や、労働党議員たちもある時期から同様のことを言い出した。戦略を切り替えたのだ。怒れる労働者たちを「レイシスト」と切り捨ててはいけない。むしろ、彼らをこそ説得しなければ離脱派が勝つと判断したからだ。
そもそも、反グローバル主義、反新自由主義、反緊縮は、欧州の市民運動の三大スローガンと言ってもよく、そのグローバル資本主義と新自由主義と緊縮財政押しつけの権化ともいえるのがEUで、その最大の被害者が末端の労働者たちだ。
だから、「大企業や富裕層だけが富と力を独占するようになるグローバリゼーションやネオリベや緊縮は本当に悪いと思うけど、それを推進しているEUには残りましょう」と言っても説得力がなく、そのジレンマで苦しみ、説得力のある残留の呼びかけができなかったとしていよいよ退任を迫られそうなのがジェレミー・コービンだ。
「貧困をなくし、弱者を助ける政治を目指す」と高らかに言って労働党党首に選ばれた人が、グローバリゼーションと緊縮財政のWパンチで「移民の数を制限してもらわないと、賃金は上がらないし、家賃は高騰するし、もう生活が成り立ちません」と訴えている当の貧民たちに、「そんなことを言ってはいけません。自由な人の移動は素晴らしいコンセプトです」と言っても、いまリアルに末端で苦しんでいる者たちには「はあ?」になる。
この記事に関連するニュース
-
自分で思うほど「偉大な国」でなくなった英国...スターマー新首相が見習うべき古豪サッカークラブの教訓
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月13日 15時20分
-
社説:英国の政権交代 内外の分断、つなげるか
京都新聞 / 2024年7月12日 16時0分
-
英新首相にスターマー氏、14年ぶり政権交代 「リセット必要」
ロイター / 2024年7月6日 4時42分
-
イギリス総選挙 政権交代しても、お先真っ暗な英国の未来
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月5日 16時20分
-
英国総選挙、労働党が優位を維持し、7月4日に投票へ(英国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月3日 11時20分
ランキング
-
1仏女優バルドーさん、反捕鯨団体創設者の拘束で日本を批判 「彼を助けねばならない」
産経ニュース / 2024年7月23日 12時33分
-
2「トランプ氏は朝米関係に未練」と北朝鮮が論評 「親交誇示も肯定的変化なし」と主張
産経ニュース / 2024年7月23日 18時50分
-
3韓国IT「カカオ」創業者を逮捕 株価不正つり上げ疑い
共同通信 / 2024年7月23日 10時15分
-
4「過去数十年で最も重大な失敗」…米シークレットサービス長官、トランプ氏銃撃事件の責任認める
読売新聞 / 2024年7月23日 10時22分
-
5米大統領選で民主党ハリス氏の指名獲得ほぼ確実な情勢…重鎮ペロシ氏らも有力者も相次ぎ支持表明
読売新聞 / 2024年7月23日 11時50分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)