残虐映像に慣れきってしまった我々の課題 ―映画『シリア・モナムール』映像の受け取り方
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月29日 16時20分
『シリア・モナムール』の監督モハンメドは、身体はパリにあり、シリアの映像を撮ることはできない。だからこそSNSに投稿された映像を用いるが、彼の態度はどこまでも現実を伝えることの不可能性を示しているようにも思える。モハンメドは現地で映像を撮影するシマヴを媒介にすることで現実を伝えるが、彼自身の身体と映像の間のジレンマが印象的だ。
この映画を観る私も、同じジレンマを抱えている。映像がどれほど悲劇的でも、それに心からの共感を示すことができない。そればかりか、映像慣れしてしまった私は現実に向き合う前に、そうした映像慣れの問題に取り組まなければならない。メディア論においては映像と身体の不一致という問題は古くから議論されているが、こうした問題はますます深く議論されなければならないだろう。
最後にもう一点。シマヴがシリアの現実をモハンメドに知らしめるのであれば、日本の現実を知らしめるのは何なのだろうか。我々にとって、現実を映すシマヴのような存在とは何なのだろうか。本作を日本で鑑賞することには、様々な意味があるように思われる。
『シリア・モナムール』
監督:オサーマ・モハンメド
シアター・イメージフォーラムほかにて公開中
(C)2014 - LES FILMS D'ICI - PROACTION FILM
[執筆者]
塚越健司
1984年生まれ。情報社会学研究者。専攻は情報社会学、社会哲学。ハッカー文化研究を中心に、コンピュータと人間の歴史など幅広く探求。得意分野はネット社会の最先端、コンピュータの社会学など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップレギュラー出演中。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)共著に東浩紀監修『開かれる国家 国境なき時代の法と政治』(KADOKAWA)など多数
塚越健司
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