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エリートは無知な大衆に立ち向かえ

ニューズウィーク日本版 / 2016年7月8日 20時40分



 もちろん、主流派政党は右であれ左であれ、現状に憤る愛国主義者の支持を何とかして取りつけようとする。それには時として、大衆迎合的な手法も必要になる。来春のフランス大統領選で返り咲きを目指すニコラス・サルコジ前大統領は「マイノリティーの暴虐」を非難、白人しかいなかった頃の「永遠のフランス」を引き合いに出した。左派では、長年自由貿易を支持してきたヒラリー・クリントンが態度を一変させた。労働組合はじめグローバル化の荒波を国境で食い止めたい人々の支持を取りつけるためだ。だが同じ主流派でも右と左では意見の隔たりが大きい。いかにグローバル化による負の影響を軽減するか、大量の難民や移民のどう受け入れるか──極右主義者の台頭がもたらす脅威ですら、両者を共通の大義に導くには不十分な有り様だ。

でっち上げでEU離脱

 目に見える分断は、政治だけでなく、現実世界にも広がっている。EU離脱派が勝利したのは、離脱派の指導者たちが有権者の被害妄想に付け入って移民がもたらす危険やEU残留にかかるコストの大きさをでっち上げたからだ。離脱派の指導者の中には、発言内容は嘘だったと認めて辞任する者も出てきている。偽りと恐怖による扇動で新基準を打ち立てたドナルド・トランプは、移民や貿易など思いつくものは何でも攻撃する。共和党にはもともと、科学的な事実や経済的な現実を否定する人間が多いが、とうとう無知な人々に心地よい現実を捏造するような男に身を委ねようとしている。

 そう、「無知」だ。多くの無知な人々がだまされている今、指導者の役割は人々の目を覚まさせることだ。それは「エリート主義」だという反論もあるだろう。そうかもしれない。あるいは、我々は自分の考えや信念を過度に尊重するようになった結果、論理や専門知識、歴史の教訓もエリート主義と考えるようになったのかもしれない。もしそうなら、現実主義の政党が覚悟を持って、現実を否定する政党やその黒幕たちと戦わなければならない。それが次に待ち受ける政治の再編だとすれば、我々は喜んで受け入れよう。

From Foreign Policy Magazine


ジェームズ・トラウブ(ジャーナリスト)


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