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ISISのグローバル・テロ作戦が始まる

ニューズウィーク日本版 / 2016年7月11日 15時50分

数カ国語でプロパガンダ

 昨年8月には、00年代前半からアフガニスタンとパキスタンを拠点としている過激派組織ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)が、正式にISISと合流した。ロシア政府の推計によると、イラクとシリアで活動するロシア人戦闘員は2000人を超える。

 中央アジアの学生や労働者、市民にとって、ビザなしで旅行できるトルコは人気の目的地だ。一方でシリアとの国境は抜け穴が多く、旧ソ連圏からシリアのISISを目指す外国人戦闘員にとっては、トルコが主な経由地になっている。

 14年6月にISISがイスラム国家樹立を宣言した後、ロシアと中央アジア諸国はイスラム過激派への警戒をさらに強めた。中央アジアの政府は強権的手法で彼らを締め付けているが、そうしたやり方は過激化をあおるだけだと専門家は言う。



 ISISはここ数カ月、ソーシャルメディアにロシア語やウズベク語のプロパガンダを数多く流している。先月に米フロリダ州オーランドのナイトクラブで発生した銃乱射事件と、フランスで警察官が殺害された事件をISISの戦闘員がたたえる動画では、ロシア語、ウズベク語、英語、インドネシア語、フランス語が使われていた。

「ISISは世界中で戦闘員を勧誘して、欧米でテロを実行させようとしている」と、安全保障コンサルティング会社クロノス・アドバイザリーの共同創設者マイケル・スミスは言う。「イスタンブールのテロリストが本当にISISのメンバーなら、今回の攻撃はそのメッセージを強化することになる」

手負いの虎の危険な賭け

 中央アジアで抑圧されているイスラム過激派の多くは、イラクやシリアに逃れている。NGO国際危機グループの報告書によると、ロシア政府は14年のソチ冬季五輪の前に「過激派を北カフカスの国境から逃したとみられる。しかし、14年後半以降は流出を抑制し、勧誘係や資金調達の要員、将来の戦闘員を組織的に捕らえている」。

【参考記事】連日の大規模テロ、ISISの戦略に変化

 ロシアに戻った戦闘員は今のところ数えるほどだが、「ロシア当局は、彼らがいずれ帰国するのではないかと非常に懸念している」と、ワシントン中近東政策研究所のアンナ・ボルシチェビスカヤは言う。

 ISISのイラクとシリアの侵攻には、北カフカスのチェチェンとダゲスタン両共和国出身の戦闘員が関わってきた。両地域に隣接したジョージア(グルジア)出身で、米軍が3月の空爆で殺害したとされるオマル・ザ・チェチェンことオマル・シシャニは、ISISの国防相に当たる地位に昇格していた。

 このところ、イラク軍が中部ファルージャを奪還し、シリア北部のマンビジにクルド人とアラブ人の連合勢力が侵攻するなど、ISISは支配地域を大幅に縮小している。そのため彼らは戦略の転換を急ぎ、ロシア圏の熟練戦闘員の配置を変えて「戦場をイスタンブールの空港に移した」のかもしれないと、ソウファン・グループのスキナーはみる。

 先月中旬にジョン・ブレナンCIA長官は、ISIS掃討作戦によって「彼らのテロ遂行能力と世界展開が縮小しているわけではない」と述べている。「ISISへの圧力が高まるにつれて、グローバル・テロリズムを掲げる彼らが世界的なテロ作戦を強化すると考えられる」

 イスタンブールの空港テロは、ブレナンの予言が実現したと言えるかもしれない。

From Foreign Policy Magazine

[2016.7.12号掲載]
イライアス・グロル、ダン・ドゥ・ルース、リード・スタンディッシュ


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