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ヌスラ戦線が、アル=カーイダから離脱を発表。シリアで何が起きているのか

ニューズウィーク日本版 / 2016年7月29日 17時50分



サウジアラビア、トルコ、カタールの動きも鈍い

 だが、狙いがどのようなものであれ、「秘策」が成功する可能性は低いだろう。ヌスラ戦線が「反体制派」と糾合することは、「反体制派」の殲滅をめざすシリア政府やロシアの主張をこれまで以上に説得力を与えるだけだ。米国もロイド・オースティン前中央軍司令官が、ヌスラ戦線は名称変更にかかわりなくアル=カーイダの一派であり続けると早々に発言しており、「秘策」を意に介そうとはしない。

 サウジアラビア、トルコ、カタールの動きも鈍い。これまでは「反体制派」の形勢が不利になるたびに、トルコ国境から多数の戦闘員、武器弾薬が流入してきた。しかし、トルコが、ロシア軍戦闘機撃墜事件(2015年11月)に対する謝罪を機にロシアとの関係改善を模索するなか、同国を経由した支援は、アレッポ市東部の「反体制派」の完全包囲という危機的事態にもかかわらず今のところ確認されていない。

 「反体制派」のなかに紛れ込み、「革命家」として支援を受けることで生き残りを図ろうとするヌスラ戦線。「テロ組織」の汚名を返上したヌスラ戦線の「軍事的傘」のもとでの存命を模索する「反体制派」。「シリア革命」が「テロ組織」にハイジャックされたとみなすか、「革命」が「テロ」に依存するようになったとみなすか、政治的な立場によって解釈は異なろうが、こうした状況こそが「シリア内戦」の悲劇的な末路を示している。

[筆者]
青山弘之
東京外国語大学教授。1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院修了。1995〜97年、99〜2001年までシリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所(IFPO、旧IFEAD)に所属。JETROアジア経済研究所研究員(1997〜2008年)を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。編著書に『混迷するシリア:歴史と政治構造から読み解く』(岩波書店、2012年)、『「アラブの心臓」に何が起きているのか:現代中東の実像』(岩波書店、2014年)などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」を運営。青山弘之ホームページ

青山弘之(東京外国語大学教授)


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