戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月1日 14時45分
一方、アメリカはもともと移民の国だ。アメリカではまだ白人のキリスト教徒がマジョリティだが、それが「アメリカ」ではない。憲法が宗教や人種による差別を禁じ、国民全員の平等を約束している。その根本的な原則で繋がっているのが「アメリカ」なのだ。
むろん、人種差別はまだ存在するし、数々の人権問題もかかえている。だが、アメリカは進歩もしてきた。だから、絶望するのではなく、より良い未来に向けて改善することに力をそそぐべきだ。それが今回の党大会で民主党とヒラリーが示した立場だ。
トランプは、「移民」「イスラム教徒」「黒人」といった括り方でそれ以外の国民の恐怖心をかきたてて対立させようとしている。票の獲得には、この戦略が有効だからだ。
トランプに対するカーンの問いかけでは、トランプを変えることはできない。それはカーンも承知しているはずだ。カーンが語りかけている相手はトランプではなく、トランプに惹かれているアメリカ国民なのだ。
「アーリントン国立墓地に行ったことがあるのか? 行って、アメリカ合衆国を守って死んだ勇敢な愛国者の墓碑を見るといい。彼らがあらゆる宗教、性別、人種だとわかるだろう。あなたは、何も犠牲にしていないし、(大切な人を)誰も犠牲にしていない」
【参考記事】ヒラリー勝利のキーマンになるのは誰だ
これに対抗してトランプは、直後のABCニュースのインタビューで、「(自分も)沢山のものを犠牲にしてきた。熱心に働き、多くの雇用を創出し、偉大な建物を建ててきた。自分は途方もない成功を収め、多くのことを成し遂げた」と反論した。しかしこの的外れの反論は、ネット上で多くの人々から批判を受けている。
カーンは、「不満や不安」を選ぶアメリカ人を恥じさせ、「アメリカの良心とプライド」を思い出させた。短いスピーチだったが、ある意味オバマ大統領の感動的なスピーチよりもパワフルだった。
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>
≪筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」≫
渡辺由佳里(エッセイスト)
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