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プリンスが残したデジタル実験の軌跡

ニューズウィーク日本版 / 2016年8月1日 15時30分

<亡くなったプリンスが「ネット嫌いだった」という噂は間違い。プリンス・オンライン・ミュージアムでは、ネットを活用して積極的にファンとの交流を図ったプリンスの生前の活動を記録している>

 突然の死から3カ月。プリンスがアーティストとして、音楽だけでなく映像、さらにはポップカルチャー全般に大きな影響を与えてきたことを改めて多くの人がたたえてきた。そして今、彼がデジタルの世界でも数々の先駆的な試みをしていたことが明らかにされつつある。

 その「舞台」となるのは、プリンス・オンライン・ミュージアム。7月4日に公開が始まったウェブサイトで、プリンスが94年から20年間にわたり試した17のデジタル実験を紹介している。これには歴代の公式ウェブサイトはもちろん、オンラインショップなどが含まれる。

「インターネットは終わった」と発言したことで知られるプリンスだが、決して単なるネット嫌いではなかったようだ。むしろネットを使って、ファンと直接交流したり、作品や独占ビデオを提供する方法を積極的に探していた。

【参考記事】紫の異端児プリンス、その突然過ぎる旅立ち

 このミュージアムの「館長」を務めるサム・ジェニングスは、01~06年に存在したファンクラブ「NPG(ニューパワージェネレーション)ミュージッククラブ」の管理人だ。同クラブはダウンロードサイトとして始まり、数バージョンを経てウェブサイトに発展した。

「取りあえず一番人気があったサイトを集めたが、プリンスは20年間で20近くのサイトを立ち上げ、ソーシャルメディアにも10個ほどのアカウントを作り、無数のオンラインチャットに参加し、世界中のファンとつながっていた」と、ジェニングスは語っている。

最近まで創作意欲は満々

 ミュージアムの構成は、実際にプリンスの公式ウェブサイト作りに関わったデザイナーたちの助言を受けながら決めた。「アーティストと観客が直接つながるため、プリンスが20年にわたりインターネットを画期的かつ挑発的に、徹底して主体的に利用したことに敬意を表したい」と、ミュージアムの趣意書にはある。

 プリンスのデジタル実験は、94年の「プリンス・インタラクティブ」から始まった。これはCD‐ROMで配布されたプログラムで、インターネットがまだ普及する前に、ユーザーが画面をクリックするとプリンスの歩みや音楽をゲーム感覚で楽しめる仕組みになっていた。



 ミュージアムの「タイムライン」のページでは、17の実験が時系列に配置され、各実験に関わった人たちから聞いた制作秘話が紹介されている。そこには熱狂的なファンでさえ知らなかった事実も明かされている。

 例えば、プリンスにとって最後の公式サイトとなった「サードアイガール・ドットコム(3rdEyeGirl.com)」は、制作のための期間がたった3日しかなかった。「最高の仕事ができたとは言えない。最低限の機能しか盛り込めなかった」と、プロジェクトデザイナーのデーブ・メイヤーは振り返る。

 このサイトが公開されたのは13年のこと。生きていれば、プリンスは今も新たな実験を続けていたに違いない。それを見ることができないのが、ファンとしては心から残念だ。

[2016.7.26号掲載]
トゥファエル・アフメド

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