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日本版「キンドル・アンリミテッド」は、電子書籍市場の転機となるか

ニューズウィーク日本版 / 2016年8月6日 10時50分

 KUは何より、長く読まれるべき絶版本を復活させるために使われるべきだと思う。それによって印刷本の需要開拓と効率的な増刷(あるいはオンデマンドでの提供)の方法も見つかるだろう。人口が減少する社会の文化は自閉的になる。1970年代までの文化遺産は「読み放題」に最もふさわしいコンテンツを提供する。それこそ若い世代に読んでほしいものでもある。E-Bookは最もコストの安いコンテンツ/商品管理の手段だ。



時間はアマゾンに味方する

 出版社(をめぐる環境)は変わった。アマゾンは変わらず、機会を待っている。アマゾンには時間があり、出版社には時間がない。国内なら日本企業に地元の利があり、外資系企業は撤退も早いという"常識"も、アマゾンのビジネスモデルには通用しなかった。欧米の大出版社は、まだUnlimitedにタイトルを提供していない。しかし、KUはなお成長速度を落としていないし、中小出版社と自主出版者だけで大きな市場を形成した。

 Kindleは大手出版社に依存せず、逆に自主出版のための大市場を開拓した。価格政策が硬直的な大手出版社は、E-Bookでは存在感を薄れさせており、印刷本でもベストセラーのディスカウント販売に頼っている。

 出版社は、待つことが状況を悪化させるという、21世紀の現実を知るべきだ。Yahoo!は、40億ドルでベライゾンに買収されたが、2014年には400億ドル、2012年には4,000億ドル相当と評価されていた。2年で10分の1。Yahoo! が何もしていなかったわけではない。手は打ったが、デスクトップからモバイルへというプラットフォームの変化のスピードについていけなかった。

 後知恵でいえることは、スタートが遅かったということだ。2010年に軌道に載せていなかったプロセスを、既存の(ピークを迎えた)ビジネスのためのプロセスと共存させつつ新たに立ち上げるのは、事実上不可能だったと思う。やはりマイクロソフトから買収に応じるべきだったのだろう。

 アマゾンは変化が待ってくれないことを覚悟し、モバイルへの対応を2010年以前に完了していた。Kindleもその一つだし、クラウド・プラットフォームにより、タブレット時代にも、余裕をもってキャッチアップすることができた。アップルはデバイスにおけるモバイル転換の成功で満足してしまった。

 業界トップ企業は、まだ現在の変化のスピードを理解していない。それは「業界」や「会社」「事業」「組織」というものを前提として発想し、そうでないものは採用されないからだ。アマゾンと同世代のYahoo! でさえそうだった。アマゾンが違うのは、不変なもの(消費者)を出発点とし、ビジネスではなく、変化を前提とするビジネスモデルを更新していることだ。時間に追われないためには先回りするしかないのだから、メディアの評判などを聞いてるヒマはない。


※当記事は「EBook2.0 Magazine」からの転載記事です。


鎌田博樹(EBook2.0 Magazine)


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