「酒の安売り許さん!」の酒税法改正は支離滅裂
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月8日 12時5分
もっとも、独占禁止法にいう「不公正な取引方法」を行う業者に対して、通常は公正取引委員会からの警告や注意を行う程度である。酒の廉売だけ、警告を飛び越えて罰金刑まで科さなければならない根拠はどこにあるのか。
ディスカウントストアが酒の安売りをやめれば、街の酒屋に客が戻ってくると本気で信じているのだろうか。あまりにもナイーヴすぎる牧歌的な発想に思える。コンビニで定価の酒が売れている事実を、直視できないのだろうか。
このたびの酒税法改正は、なぜか支離滅裂なのである。居酒屋で酔っぱらいながら法案を書いたわけでもあるまい。安売り規制の効果については、肝心の一般酒販店の側からも疑問の声が上がっているという。そのまっとうな感覚に、ホッと安心させられる。
【参考記事】本の「せどり」が合法なのに、なぜチケットのダフ屋は違法なのか
「巨大資本による、酒の安売り憎し!」とばかりに、酒販組合から政界へ懸命にアプローチを続けてきた。その間に、社会を取り巻く状況は大きく変化していた。そういうことではないだろうか。日本人の収入が全般的に減っているのだから、物の値段も下がらなければ釣り合うはずがない。
他の業界と同じように、きっと酒販業界にも「酒を売る」だけでなく、「酒の付加価値を売る」べき時代が到来しているのだろう。これからは、酒の楽しみ方や、交流の場の提供、あるいはアルコール依存症や飲酒運転の予防や改善など、酒をたしなむ「人」にフォーカスした取り組みを実行していかなければならないと、すでに現場の一部は気づき始めている。
[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」
長嶺超輝(ライター)
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