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イチロー3000本安打がアメリカで絶賛される理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2016年8月9日 15時0分

 つまり12日以降は、歴代30位だとか、アメリカ出身者以外では4人目だという以前に、イチロー選手はメジャーの「現役最多安打の記録保持者」という存在になるのです。これは大変な重みがあります。

 2点目としては、世代の問題があります。イチロー選手が、アメリカにやってきてマリナーズで大活躍した時、その人気は全国的でした。新人でいきなり首位打者とMVPを獲得、また今でも衰えない守備力などは強い印象を与えたのですが、特に2000年代の後半においては全米の野球少年にとって、大変な憧れの的になっていたのです。2007年のオールスターで史上初の「ランニングホーマー」を打ってMVPを獲得したことも、語り草になっています。

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 イチロー選手は、日本では決して小柄な方ではありませんが、メジャーの中では比較的小柄であり、その引き締まった体型も含めて、野球少年にとっては親近感がありました。筆者はニュージャージー在住で、マリナーズの地元シアトルとは何の関係もありませんが、子どもたちのリトルリーグの中で「背番号51」が争奪戦になったのを覚えています。

 そのように2000年代にイチロー選手の活躍を見て育った世代が、社会人になって「自分のお金でチケットを買って」イチロー選手を応援したり、ストリーミング中継でマーリンズの試合を見たりしているのです。この「2000年代の野球少年の憧れだった」位置付けは今でも重要です。

 3点目としては、これは野球界の「イヤな」部分に属する話ですが、その2000年代というのは、メジャーリーグが「薬物使用問題」で大きく揺れた時代でもありました。そのスキャンダルの中にあって、異常に作られた筋肉を使って本塁打を量産する打者ではなく、イチロー選手のシャープな打撃はとりわけ野球ファンに大きくアピールしたのです。

 薬物の問題で言えば、イチロー選手がやがて抜くであろうラファエル・パルメイロ選手(3020本)や、大台に届かなかったバリー・ボンズ選手(2935本、現在はイチロー選手の属するマーリンズの打撃コーチ)といった人々は、薬物使用の問題から「野球殿堂入り」が見送られました。彼らが「影の部分」である一方、イチロー選手の真摯な姿勢は球界の「明るい希望」を象徴していると言えるでしょう。



 4点目は、その俊敏なプレースタイルを42歳の現在まで維持していることです。30代の後半で急速に力が落ちる選手が続出する中、イチロー選手は走力にしても、肩の力にしても、そして何よりも引き締まった体型の維持ということではまったく衰えを感じさせません。そのことは、まさにマッティングリー監督が言うように「単なる記録以上の意味がある」わけで、多くの野球ファンはそのことを良く知って賞賛しているのです。

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