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天皇陛下の基本的人権――日本国憲法から読み解く

ニューズウィーク日本版 / 2016年8月18日 11時29分

 日本国憲法4条は「国政に関する権能を有しない」と定めている。そのため、天皇陛下は選挙権や被選挙権(15条)を持ちえない。法改正や政権批判などの政治的発言が許されないことから、表現の自由(21条1項)や学問の自由(23条)も一部で制約を受ける。「お気持ち」のビデオメッセージで、生前退位のご希望を遠回しにしか表明なさらなかったのも、生前退位の実現には皇室典範の改正が欠かせないためだ。政治的発言と受け止められないよう、極めて慎重にお言葉を選んだためと思われる。

 なお、憲法上の制約ではないが、天皇は神道における祭祀の主宰者というお立場上、信教の自由(20条1項)も制約を受ける(理論上は、天皇陛下がお心の中で神道以外の宗教を信仰することは禁じられていない)。



天皇陛下は自己決定権を行使できるか

 では、天皇陛下は、ご自身の地位を、自らのお考えとタイミングで次の継承者へ譲り渡す「自己決定権」を行使することが許されないのだろうか。

 日本国憲法13条には、自己決定権の源流である幸福追求権が定められている。さらに「幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とも明記されている。よって、天皇陛下が生前に退位をお決めになる自己決定権も「立法その他の国政の上で、最大の尊重」をされるのが原則だ。もし、「最大の尊重」をされないとすれば、その例外を設けなければならない特別な根拠が、果たしてどこにあるのかが問題となる。

 1984年、当時やはり80歳を超えるご高齢だった昭和天皇の「生前退位」の是非が、国会で議論されたことがある。当時の宮内庁長官だった山本悟氏は、国会答弁として、生前退位を認めた場合の問題点を3つ挙げた。

●もし、退位を認めれば、「上皇」が存在しうる(天皇を超える影響力を生じさせかねず、それが社会に弊害を生むおそれがある)。
●何者かの圧力によって、天皇陛下ご自身の意思に沿わない「退位の強制」がなされる危険がある。
●天皇陛下が恣意的に退位できるようになる(「なんとなく嫌だから辞める」のも可能になり、皇室に対する敬意や信頼の基盤が揺らぎかねない)。

 以上の理由で、「生前退位」の自己決定権が封じ込められているのが実情だ。

 その皇位継承などについて定めた皇室典範は、明治時代になって初めてつくられた。当時の天皇陛下は、大日本帝国を代表する元首にして、国家の統治権を掌握する「現人神」だった。戦前ならびに戦時には、その計り知れない影響力が、先の戦争において軍部に都合よく利用されたこともあった。

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