「石油需要ピーク」が来たら?
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月1日 17時5分
Jaffe氏が指摘している「もし」、すなわち石油需要が早期にピークを迎える条件は、昨年末のパリ協定を推進する政策の実行が、太陽光や天然ガス利用の拡大、安価なバッテリー製造技術の革新、カーシェアリングの推進や公共交通網の拡大に基づく都市化、さらには効率的なエネルギー利用の進展などである。Jaffe氏は、これらが先進国のみならず、発展途上国でも早期に起こる、としているのだ。この結果、現在9,500万B/Dほどの石油需要量はピークを迎え、2040年には7,500万B/Dほどに低下する、という研究結果があるというのだ。
なるほど。
この「もし」の動向は注視する必要がある。
だが、Jaffe氏も指摘しているように、重要なことは石油が使われなくなることではなく、使われる量が減少するということ、したがって生産者のあいだで競争が起こるので、投資家は投資先の「保有埋蔵量」だけではなく経営能力を冷静に判断する必要がある、ということだ。これは早期のデマンドピーク論者でなくとも同意する見方だろう。
また今年4月、ドーハ会議が土壇場で破綻したとき、筆者は心密かにサウジの石油政策の根本的変更を危惧していた。
ムハンマド副皇太子が、Jaffe氏のように「早期に石油需要のピークが来る」と判断して、伝統的な「長期にわたりエネルギー供給の中心に石油を位置づけることを目指す」政策を放棄するのではないか、と懸念していたのだ。つまり、地下に眠る石油をいっときも早く市場に放出し、現金に変える政策を採るのか、と心配したのだった。
5月末のOPEC総会で、ファーリハ・エネルギー相が「市場に石油を溢れさせることはしない」と発言したことで、この懸念は払拭されたのだった。
このような長期の視点を失わずに、一方で足元の動静を冷静に判断すること。
これが「着眼大局、着手小局」ということだろうが、言うは易く、行うは難し、だ。
[執筆者]
岩瀬昇
1948年埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、二度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクで延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。現在は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」の代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? 』『日本軍はなぜ満州大油田を発見できなかったのか』『原油暴落の謎を解く』(以上文春新書)。
※当記事は岩瀬昇のエネルギーブログからの転載です。
岩瀬昇
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