「国籍唯一の原則」は現実的か?――蓮舫氏の「二重国籍」問題をめぐって
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月9日 19時50分
だがその規定は「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」という努力義務にすぎない。重国籍者に国籍選択を呼びかける法務省のパンフレットによれば、2006年度に出生した子の100人に1人が重国籍だったというが、離脱手続きを取らない、もしくは取れない人も少なくない。
国籍法と人々の実態がかい離
日本がいくら国籍唯一の原則を取っても、グローバル化によって国際結婚はもちろん、国際的な人の移動がさらに激しくなっているという現実があり、また冒頭で述べたように血統主義と生地主義、さらに重国籍を認めている国も多いなど、国籍法が国によって大きく異なっている以上、国籍選択制度、国籍唯一の原則は形骸化せざるをえないのが現実だ。
つまり日本の国籍法と、人々の実態の間にかい離が生じているのだ。今回の件も、そのひとつの事例と言っていいだろう。
狭間にいる人びとの理不尽
ひとりの人間が生きている間に国境を越えた移動や出会いがあるのは今や当然のことだ。そのような越境が世代をまたぐこともある。ひとつの国のひとつの制度がひとりの人間を規定するのは困難な時代だ。
蓮舫氏の「二重国籍」の可能性について問題視する人々は、そのような状況下でもたらされた複雑な制度の壁に直面したり、その狭間で振り回されて、自らの人生の選択を迫られたり、真剣に悩んだりしたことがあるのだろうか。
しかも、そのような問題はたいてい外からやってくる。にもかかわらず、説明を迫られるのはいつも個人の側だ。
[執筆者]韓東賢(はん・とんひょん)
日本映画大学准教授(社会学)。1968年東京生まれ。大学までの16年間、朝鮮学校に通う。卒業後、朝鮮新報記者を経て立教大学大学院、東京大学大学院で学び、現職。専攻は社会学。専門はナショナリズムとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティの問題など。主なフィールドは在日外国人問題とその周辺、とくに朝鮮学校とそのコミュニティの在日朝鮮人。最近は韓国エンタメにも関心あり。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィー)―その誕生と朝鮮学校の女性たち』(双風舎,2006.*現在は電子版発売中)、『平成史【増補新版】』(共著,河出書房新社,2014)など。
*この記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。
韓東賢(日本映画大学准教授)
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