アップルの税逃れ拠点、アイルランドの奇妙な二重生活
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月9日 20時0分
もちろん、26%成長という数字を鵜呑みにはできない。これは、アップルのような企業がアイルランドの低い法人税率を最大限に生かすために行った事業再構築の結果だ。アップルなどの多国籍企業は知的所有権や特許など、実体経済にはほとんど貢献しないが統計上GDPを増やす資産を持つ。それをアイルランドに移すことで、その収益にかかる税金を低く抑えることができるのだ。
対外債務の返済に汲々とし、タックスヘイブンという悪評の返上に心を砕く政府は、26%成長は外聞が悪いと思ったのだろう。できるだけこの数字を小さく見せようとした。エンダ・ケニー首相によれば、実際の成長率は4%ぐらいのものだという。26%の大躍進はいったいどこに消えたのだろうか。
もっとも、今のヨーロッパで4%成長といえば立派なものだ。紙の上だけだった成長の果実が実体経済に及び始めた兆候もある。首都ダブリンの中心部では、バーやレストランに活気が戻ってきた。パーティー気分の復活だ。だが、華やかさの陰には必ず取り残された人々がいる。ホームレスの数は過去最多、家賃高騰で家を追い出される家族も多い。まずは一時避難所に駆け込むが、貧困者向け住宅には長い順番待ちのリストができている。
都市部以外では状況はもっと悪い。全国の小さな町では、倒産した中小零細企業が軒を連ねている。アイルランド中部、人口4万人のロングフォードは、2008年のバブル崩壊で最大の打撃を被った建設業の町。若者は仕事を求めてダブリンや海外に去った。バブル崩壊の直前に完成したショッピングセンターは、テナントが表れず空家のままだ。
景気後退と緊縮財政のおかげで、公共サービスはどこも麻痺状態。医療は財源不足でなかなか医者には診てもらえず、病院のベッドも足りない。学校は経費削減のため、2つの学級を1つの教室に詰め込んで授業をしているところもある。
アイルランドが金融危機に陥り、IMFとEUから約850億ユーロ(約9兆4000億円)の金融支援を受けた2010年以降、アイルランド人は塗炭の苦しみに耐えてきた。多国籍企業が低税率を謳歌する傍らでも、不満を口にする者はほとんどいなかった。無料だった水道から料金を取ることになった時は反発したが、多国籍企業からタダのような税金しか取らないことに関しては、景気後退から抜け出すための必要悪とでもいうように容認してきた。
【参考記事】アイルランド、国家存続の瀬戸際へ
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