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レイシズム2.0としての「アイデンティタリアニズム」

ニューズウィーク日本版 / 2016年9月12日 18時5分

 なお、スペンサーは白人至上主義者とされることが多いのだが、彼自身はそうではないと主張していて、上記のような理解に立つなら、彼の言い分にも一理あると言える。ちなみに、先日スペンサーは(観光で)来日していたらしく、「ヒラリー・クリントンが演説でalt-rightに言及してくれたのはありがたい」「日本は国民国家なので多様性の問題が無く平和で素晴らしい」などと余裕綽々に語っていた。

.@richardbspencer responds to Hillary's #AltRightSpeech from anime island known as Japan.https://t.co/vy17qmyNBE— Radix Journal (@RadixJournal) 2016年8月26日


 このようなアイデンティタリアニズムが支持を得る背景には、例えばアメリカにおいては移民が増えて、白人とその文化がマイノリティになり、社会が荒廃しつつあるという現状認識がある(これが正当かは議論の余地があるが)。マイケル・アニッシモフという人がいるが、彼はアイダホ・プロジェクト(Idaho Project)という小冊子を書いた。

Idaho Project (English Edition)

 これは、ごく簡単にまとめれば、アイダホ州は元々白人が圧倒的多数なので(というか、そもそもあまり人間が住んでいないので)、ここに白人みんなが移住して固まって暮らそうという主張である。間抜けな話に聞こえると思う(し、まあ間抜けな話であることは間違いない)が、私はこの主張は図らずも重要な論点を浮き彫りにしていると思う。それは、多様性を同質性よりも優先すべきなのか、という問いである。リベラルは多文化主義や国際主義を無前提に善と思いがちだし、それに異議を唱える人に対してレイシストや旧弊のレッテルを貼るのに躊躇しない。



ヨーロッパで広がるアイデンティタリアニズム

 しかし、多文化共生の理想は麗しいものの、実際にはきれいごとばかりでは済まないのもまた事実である。少なくとも、それによって割を食う人々というのは相当数いるのだ。そこには目をつぶり、市井の人々が抱いた素朴な違和感を(SJW流に)抑圧したのが、こうした人々をオルタナ右翼へ追いやり、その伸張を許した原因の一つだと私は思う。しかも、先に書いた話と関連づけると、相互不可侵で他の集団には手を出さない、という意味では孤立主義的な心情が強いペイリオコンと、そして個人の自由を重視して似たような志向の人で集まって暮らしましょうという意味ではリバタリアン的な心情とも整合性がある。

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