トランプ当選の可能性はもうゼロではない - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月23日 17時0分
これは、アメリカ社会全体としては決して「今は良い時代ではない」という感覚に重なるわけです。そして、失業率は下がっているものの「自分は再就職したが希望年収にはまったく届かない」とか「今は職があるが、今度失業したらもう後がない」あるいは「自分の周囲に職のない若者が多い」といった「雇用に関するネガティブな生活実感」が濃厚だということもあります。
そんな中で「こんなはずはない」とか「この世の中で成功している人間は妬ましい」あるいは「自分は特に失うものはないので、世の中を思い切りひっくり返して欲しい」という感情を持つ人たちが確実に増えていると言えるでしょう。
【参考記事】「健康問題」と「罵倒合戦」で脱線気味の大統領選
2点目はテロと安全保障です。欧州のようなテロの横行する社会とは距離を置きたい、イラク戦争のような犠牲を伴う「介入」は二度とやりたくない、先週のニューヨーク、ニュージャージー州の爆弾テロのような単独犯も怖いので予備軍も含めて入国規制して欲しい......つまりトランプ的な「文明の隔離主義」「孤立・非介入・隔離」という考え方が不気味なまでに広がっています。
シリア情勢にいたっては「複雑すぎて理解する気もない、従って興味はない、だが怖いから距離を置きたい」というアパシー(無気力・無関心)が広まっているように感じられます。こうなると、デマゴーグ的な煽り方をしてきたトランプだけでなく、「どうせ理解してもらえない」からと、国民に対して「複雑な中東情勢とアメリカの姿勢」を説明してこなかったオバマ=ヒラリーにも相当非があると言わざるを得ません。
3点目はヒラリーの選挙戦です。本来やらなければならない、複雑なシリア情勢でも「国民に平易に真実を説明でき、その上で最適解を提案する」ことができていません。経済もそうです。ヒラリーの政策ハンドブックには「アメリカは先進国型経済を極め、知的労働で生きていく。その代わり、巨大な人口が知的労働に足りるだけの職業教育が受けられるように具体的な施策を整える」と書いてあるのです。
しかし、その具体策を誠実に訴えることはできていません。「トランプ叩き」ばかりに走っているのです。これでは、「次期大統領はあの程度なのか」という、失望感と無関心が拡大するだけです。とにかく「基礎票は固めた」ので、消極的支持層の取り合いをするという「戦術判断」に流れているうちに、今度は基礎票が動揺しているという危険な状態に見えます。
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