エジプトの過激派にナチスからの地雷の贈り物
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月24日 11時0分
こうした地雷を掘り起こす作業は危険を伴う。しかしリビア国境から200キロ余りのマルサ・マトルーフ周辺の住民にとって、背に腹は代えられない。この辺りは約4キロにわたる地雷原に3方向を取り囲まれており、開発が妨げられている。村人たちは貧しく、危険を冒してでも地雷を見つけて売りさばきたい。
過激派の格好の避難場所
「彼らには地雷を掘り起こす以外に生活手段がない」と、アブドゥル・モネイム・ワエルは言う。地雷に関する啓蒙活動をしている彼は、若い頃に地雷で手の指を3本失っている。
第二次大戦中の兵器が武器市場に流れているのは、エジプトだけではない。イラクの武器査察官の最近の記録には、1942年製のイギリスのリー・エンフィールド銃がある。クルド人民兵のペシュメルガが、北部トゥズフルマツのISISから奪ったものだ。
マリで当局が掘り起こした大量の武器の中には、1万丁以上の古いヨーロッパの銃が含まれていた。シリアのビデオ映像からは、反政府勢力が使用可能な40年代の大砲を1門持っていることが判明している。
リビアでは、第二次大戦中の連合国側と枢軸国側の武器を武器査察官が大量に発見。「イギリスのウェブリー・リボルバーが数十丁、それにイタリアのカービン銃やモーゼル銃、ブレン軽機関銃などが売られているのを見た」と、武器コンサルティング会社の兵器研究サービスのN・R・ジェンセンジョーンズは言う。
【参考記事】パレスチナ映画『歌声にのった少年』の監督が抱える闇
エジプトの地雷原は、埋設量が膨大なこと以外にも大きな問題がある。リビア国境から内陸部に入り込んでくる密輸業者やジハーディスト(聖戦士)を守る役割を果たしていることだ。地元のガイドを雇えば、地雷のまき散らされた土地をSUVで注意深く進むことができる。危険区域ゆえ軍のパトロールと出くわす心配はないから、「彼らにとって格好の避難場所になる」と、エルシャズリーは言う。
周辺の埋蔵石油を確保する目的のほか、警備上の理由からエジプト当局は地雷撤去のペースを加速させている。81年以降、300万個が除去され、残りも3年以内に処理する予定という。
砂漠の住民にすれば、それでも遅いくらいだ。彼らは過去2年間、ジハーディストがエジプト軍に大規模攻撃を仕掛け、アメリカなどの石油労働者が誘拐され、殺害されるのを見てきた。
エジプト当局の行動も時に被害をもたらす。昨年はメキシコ人観光客8人を含む12人がジハーディストと間違えられてエジプト軍に殺害された。
数カ月前にはフランス企業のガス探査員が同じ目に遭うところだったとの話もある。以来、立ち入り禁止区域を走るエネルギー会社のジープは色付きの旗をはためかせている。
ただしほとんどのベドウィンの怒りは、殺人装置を埋めた人々に向けられる。マルサ・マトルーフの地雷生存者協会のアフメド・アメル会長は「ただ立ち去るなんて許されない」と、欧州の大国を非難する。「彼らがちゃんと除去すべきだ」
[2016.9.13号掲載]
ピーター・シュワルツスタイン
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