ボブ・ディラン受賞の驚きと、村上春樹の機が熟した2つの理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月14日 16時30分
その「壁」というのは、複雑な「入れ子構造となっている」その入植地をテロから守ると称して作られた複雑な壁であり、その撤去を行うには西岸地区における両民族の共存を可能にする厳格な法体系と、共生のルールがなくては成立しません。
また「卵」というのも単純な話ではありません。インティファーダというと、パレスチナ人が卵や石を投げる平和的な抗議というイメージがありますが、実際は火炎瓶や自爆テロも伴っています。これに対するイスラエル側の行動も実弾射撃から戦車隊の投入へとエスカレートしています。そのような複雑な紛争を解決に導くには、「一方が善で他方が悪」だというような原理主義的な思想ではなく、故シモン・ペレス氏のような粘り強いリアリズムが必要なのだと思います。
エネルギー政策も同様で、原発に対して最初から否定する態度も、また依存を前提に行動する態度もどちらも合意形成能力には乏しいわけです。目に見えない放射線に対して人間が本能的に抱く危機回避行動を甘く見ない一方で、絶望的に資源のない国家が、温室効果ガスの排出抑制という地球規模の使命を果たすためには、どんなエネルギーの「ミックス」が適正なのかは、極めて複雑な議論を要求します。
現代の社会的課題、国際的な紛争というのは、そのような「複雑系」として存在します。例えばシリア問題がまさにそうであり、中国の一部企業の破綻処理などもそうだと思います。そのような社会において、「一方の立場にコミット」してしまう態度では、もう問題解決が不可能になっています。そのような時代にあって、世界に対して距離を置く「デタッチメント」の思想というのは、別の意味での重要な価値が出てきていると思うのです。
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