米で頻発するサイバー攻撃は大規模攻撃の腕試しだ
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月26日 18時30分
Creative Commons/Composite
【参考記事】サイバー犯罪に取り組むインターポールを訪ねて
中国の電子機器メーカー「Hangzhou Xiongmai Technology」は、攻撃の踏み台にされたと伝えられた製品のリコールを発表した。だがミライに感染しやすい製品を製造しているメーカーは、同社以外にも多数あるとみられる。
コンピューターセキュリティの専門家で暗号を研究するアメリカのブルース・シュナイアーは、DDoS攻撃が続く理由について、「何者かがインターネットをダウンさせる方法を習得しつつある」と指摘した。ただし彼にも、誰が犯行に及んだかを特定することはできない。
アメリカを拠点とする「ニュー・ワールド・ハッキング」と名乗るグループが、今回の攻撃への関与を認めた。同グループは2015年に英BBCのホームページの閲覧ができなくなった際にも犯行声明を出した過去がある。メンバーの1人は犯行の動機について、ウィキリークスの創設者であるアサンジを支援するためだと述べた。アサンジは先週、米民主党大統領候補ヒラリー・クリントン陣営のメールのハッキングをめぐり、亡命先のエクアドルでネット回線を切断された。
【参考記事】ハッカーvs米政府、サイバー戦争に突入か
「我々はスーパーコンピューターのボットネット(遠隔操作できる攻撃用ソフト)やIoTのボットネットを使った」と、同グループは本誌の取材に答えた。「我々は試験を行っているだけで、連邦捜査局(FBI)の捜査対象にはなりたくない。正当な理由に基づいて行っている」
あてにならない犯行声明
サイバーセキュリティの専門家は彼らの主張を一蹴する。米セキュリティー会社の「フラッシュポイント」は同グループを「詐欺集団」とこき下ろした。
マカフィーも犯行声明に疑問を呈したうえで、外国政府の資金援助を受けたより高度なハッカー集団が関与している可能性を指摘した。
「ダークウェブ(犯罪の温床になっているサイバー空間)の情報によると、121局と呼ばれる精鋭サイバー攻撃部隊が関わっている」とマカフィーは言った。「米政府とFBIは北朝鮮のサイバー攻撃能力は高くないと主張するが、それは誤りだ。北朝鮮のハッカーたちは並々ならぬ高度な技術を持ち、組織力も高い。それに確かな動機もある。間違いなく彼らはアメリカを憎んでいるはずだ」
121局の実態は謎に包まれているが、韓国国防省によると、北朝鮮は2015年から部隊を6000人に増員した。過去に北朝鮮が関与したとされる大規模なサイバー攻撃では、2014年の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の暗殺を描いたコメディー映画『ザ・インタビュー(The Interview)』の公開直前に、米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントのサーバーがハッカー集団による攻撃を受けた。当時はハリウッド俳優などの個人情報が流出する被害が出た。
『ザ・インタビュー』が北朝鮮の体制を皮肉り、金正恩を無知で滑稽な独裁者として描いたことからも、北朝鮮がソニーを攻撃した動機は明らかだ。それに比べると、広くアメリカを標的にした今回のサイバー攻撃は動機がはっきりせず、関与が疑われるハッカーのリストも膨大だ。
「インターネットの基盤サービスを提供する会社を攻撃してネット防衛能力を試すなど、通常はあり得ないし、活動家や犯罪者、研究者による単独犯とも考えられない」とシュナイアーは先日、ブログで持論を述べた。
「一連の攻撃の規模と機密性、とりわけその執念深さから、黒幕は外国政府だろう。まるである国の軍部と密接に関わるサイバー攻撃部隊が、今後サイバー戦争が起きた事態に備えて武器の射距離を調整しているようだ」
アンソニー・カスバートソン
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