2000年代で最も重要なアートブックの出版社
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月30日 7時55分
ブック・ケース・スタディ誰かに語りたくなるこの1冊
定期的に海外のひとつの出版社に焦点を当て、その出版社の本だけを取り扱うショップ「POST」のスタッフが、いま気になる一冊をピックアップ。今回、中島佑介さんが着目したのは、映画『世界一美しい本を作る男~シュタイデルとの旅~』でも注目を浴びた、ドイツの出版社。そこでは、ある一人の人物がすべてのプロジェクトを動かしています。
The Little Black Jacket / Karl Lagerfeld, Carine Roitfeld / Steidl ザ リトル ブラック ジャケット / カール・ラガーフェルド、カリーヌ・ロワトフェルド / シュタイデル
ドイツのゲッティンゲンという小さな街に、世界中のアーティストたちが信頼を寄せる出版社があります。ゲルハルト・シュタイデルが設立したSteidl(シュタイデル)社です。シャネルのカール・ラガーフェルド、写真界の巨匠ロバート・フランク、ロバート・アダムスやジョエル・スタンフェルドといった大御所写真家、エド・ルシェやロニ・ホーンといった世界の最前線で活躍する現代美術作家、ノーベル文学賞受賞者のギュンター・グラスなど、 Steidlをパートナーとして信頼する作家には錚々たる顔ぶれが名を連ねます。世界にある数多くのアートブック出版社の中でも特にSteidl社への信頼は厚く、「世界一美しい本を作る男」「2000年代で最も重要な出版社」と称されています。
(参考記事:Vol.03 100年間を振り返る、スイスデザイン史の集大成。)
一貫したものづくりで、シャネルの「黒」を体現。
「世界一美しい本を作る男」と呼ばれる理由がよくわかる1冊が「The Little Black Jacket」です。この本は、シャネルの伝統的なデザインとして引き継がれてきた黒いジャケットをカール・ラガーフェルドが現代的にデザインし直し、著名なファッションエディターのカリーヌ・ロワトフェルドがスタイリング、世界各国のセレブリティたちがジャケットを纏っている姿をラガーフェルド自身が撮影した写真がまとめられています。
(参考記事:Vol.02 時を経ても淘汰されることのない、革新的なデザインを収録。)
一見すると黒い直方体のようにしか見えないこの本は、中のページも黒く、黒い紙に印刷されているのかと錯覚してしまいますが、本文は白い紙に黒と2色のグレーで印刷して深みを与え、小口を黒く着色するという、優れた技術と複雑な工程を経てつくられています。コンセプトの「黒」というテーマを体現するようなブックデザインは、ゲルハルト氏の培ってきたブックメイキングに対する深い知識と洗練されたセンスによって生み出されているのでしょう。
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