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インドのデリーを覆った「有毒ガス」の正体

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月8日 16時14分

 先週末、インドの首都ニューデリーの住民たちを恐怖が襲った。町が突然、1月の冷たい冬の霧のようなものにすっぽりと包まれたのだ。だが天気は穏やかで、霧の発生はありえなかった。

 霧のようなものは実は煙で、首都圏に住む何百万もの人々はそれを吸い込んだのだ。

 不安を感じた住民たちは、先を争うようにマスクや空気清浄機を購入した。多くの人が目や肺の不調を訴えた。健康に関する勧告が出され、特に子どもと高齢者は、外出したり屋外で運動したりすることを控えるよう呼びかけられた。

「デリーの大気汚染は悪化しており、戸外はまるでガス室のような状態だ」。デリー首都圏首相のアルヴィンド・ケジリワルは11月5日の記者会見でそう語った。

【参考記事】計測不能の「赤色」大気汚染、本当に政府が悪いのか

 視界不良は終日続き、空気質指数(AQI)によると、汚染物質の危険レベルは安全基準の17倍に及んでいる。

 11月7日には、学校は休校となり、自宅勤務を許可する企業も出ている。

煙の背後で責任のなすり合い

 一定の季節に発生する大気汚染に、高い湿度と弱風が相まって、デリーの大気汚染は最悪のレベルに達した。アメリカ環境保護庁(EPA)の調査によると、ニューデリーの大気汚染は現在、世界最悪にランクづけされている。

 しかしケジリワル首都圏首相に言わせれば、その直接的な責任は、隣接する農業州のパンジャブとハリヤナにあるという。これらの州では野焼きが広く行われているからだ。

 両州の農民の大多数は、米の収穫後に残る藁などを焼却処分しているが、それによって有毒なエアロゾルやガスが大量に放出される(藁などから堆肥を作るなどして環境にやさしい手段を用いると次の作付まで時間がかかる上、そのためにかかる設備や費用は農民にとって大きな負担となる)。

【参考記事】赤色警報の中国も仰天、インドの大気汚染

 だが両州の政府は責任はデリーの大気汚染にあると言う。確かにデリーは、世界保健機関(WHO)の調査で2014年に世界で最も汚染された都市という「お墨付き」も得ている。

 さらにインドの政治家が口にしたがらない最大の原因がヒンドゥー教の新年のお祝い「ディーワーリー」だ。毎年恒例のこのお祭りは今年は10月30日に開催され、何千発もの花火が国内と首都圏各地で打ち上げられた。そして花火が空に打ち上げられるたびに、WHOの安全基準をはるかに超える有害な汚染物質が排出されるのだ。



 市民運動の反対も強まっており今年の花火の売上は減少したものの、爆竹を鳴らすことが自分たちの宗教的自由の一部だと考えるヒンドゥー教徒は多い。デリー政府は爆発物の使用を禁じているが、「宗教的会合」のために使用される場合は例外扱いだ。ヒンドゥーの祝祭を規制するのは、政治的にはそれほど危ない行為なのだ。

 デリー政府はその代わり、その場しのぎの対策を打ち出してきた。例えば、建設作業の一時的な禁止策や、汚染を引き起こす工場の閉鎖、今年に入ってからは首都圏で2週間にわたって車両の通行規制などだ。

 その一方で、長期的な解決策となる公共交通機関の増強や自転車道の整備、工場での自然エネルギー導入などはまだ目処が立っていない。

 安心して呼吸をしたいなら、町を離れることが一番かもしれない。

PRI's the World


ニミシャ・ジャスワル

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