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世界経済に巨大トランプ・リスク

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月10日 19時14分

 トランプの提案は「究極的には、FRBの独立性に対する世界の信頼とアメリカの地政学的な立場を大きく損なう」ことになると、米投資信託会社T・ロウ・プライスのチーフUSエコノミスト、アラン・レベンソンは火曜の夜、顧客宛のメッセージで警告した。



 それでもトランプの勝利を受けて、金融、医療、一部のエネルギー関連株は急上昇した。選挙戦中は労働者の味方を自称し、クリントンとウォール街の「癒着」を批判していたトランプだが、その一方で、オバマ政権が金融危機の再来を防ぐために導入した金融改革規制法「ドッド・フランク法」の撤廃を叫んできた。

「ドッド・フランク法は銀行家の手足を縛っている。そのために銀行は融資を行えず、雇用が生まれない。人々が職にありつけないのはそのためだ。この弊害をなくさねばならない」トランプは有権者にそう訴えてきた。

 オバマ政権の医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃も公約の1つだ。医療分野の規制が緩和されれば、新薬などへの投資が活発化すると予想され、トランプ勝利後、医療・製薬関連の株価が跳ね上がった。

クリーンエネルギー株は下落

 エネルギー部門の一部もトランプ勝利に沸いた。トランプは石炭火力発電を規制するオバマ政権の環境政策を撤廃すると公約している。実現すれば、アーチ・コール、コンソル・エナジーなど石炭採掘会社は息を吹き返すだろう。一方、トランプは発効したばかりの「パリ協定」からの離脱を掲げており、アメリカの温暖化防止の取り組みは後退すると予想される。その見通しからクリーンエネルギー関連株は軒並み下落した。

 防衛産業もトランプ新大統領を歓迎している。トランプは歳出の強制削減による国防費の上限を廃止し、軍備を拡大すると公約してきたからだ。投票日の翌朝、ノースロップ・グラマンとロッキード・マーチンは約5%、レイセオンは7.6%と、防衛関連株は大幅に上昇した。

 富裕層の大幅減税など、トランプが掲げた経済政策の一部は議会の承認が必要になるが、選挙戦中にポール・ライアン下院議長の「裏切り」を批判したトランプが議会とうまくやっていくのは難しいだろう。

「政策を通したいなら、何らかの形でライアンの協力を取り付ける必要がある」と、ケイトー研究所のエコノミスト、ジェラルド・オドリスコルは言う。



金持ち減税で赤字拡大

 とくにトランプの税制改革は、財政再建を掲げてオバマ政権と渡り合ってきた共和党には受け入れ難いものだ。トランプ案では、累進課税の最高税率を現在の39.6%から33%に減らすとしている。独立系の税制政策研究所の試算では、これにより連邦政府の歳入は、10年間に渡って9兆5000億ドル減ることになる。それに見合う分、歳出をカットしなければ、2036年までに財政赤字はGDPの80%近くに達する。

 トランプのその他の経済政策も実現できる見込みは薄い。トランプは年間4%の成長率4%を達成し、今後10年間で2500万人分の雇用を創出すると言っている。オバマ政権下での成長率は毎年約2%、雇用創出は900万人分だった。トランプの青写真が実現するとみるエコノミストはまずいない。選挙戦中には、著名なエコノミスト370人が連名で、トランプは「アメリカにとって危険で破壊的な選択」だと警告する書簡を発表した。

 勝利の翌日、トランプは早くも公約実現の困難さを思い知らされたはずだ。ゼネラル・モーターズは自動車販売の不振を理由にミシガン州とオハイオ州の工場で2000人超の人員削減を実施すると発表した。皮肉なことに、この2州の有権者はトランプの雇用創出策に夢を託したのだ。

From Foreign Policy Magazine

デービッド・フランシス


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