途上国型ワーカホリックから、いまだに脱け出せない日本
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月16日 16時45分
<世界各国では社会成熟に伴って仕事を重視する傾向は低下するのが普通だが、なぜか日本は先進国で唯一、途上国型の「仕事重視」思考から脱却できていない>
日本人の「働き過ぎ」が言われて久しいが、その是正に向けた取組もこれまで進められてきた。週休2日制が普及し、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)が謳われ、2014年には過労死防止法も制定された。
しかし統計によると、成果の程は定かでない。男性労働者の平日1日あたりの仕事時間は、1976年の478分から2011年の497分に増えているし、睡眠時間は逆に485分から438分に減っている(総務省『社会生活基本調査』)。
昨年暮れには、大手広告代理店の若手社員が過労の末に自殺する事件が起きたが、月の残業時間は100時間にも及んでいたという。日本人のワーカホリックは未だに治癒しておらず、むしろ悪化する傾向さえ感じられる。
【参考記事】このままでは日本の長時間労働はなくならない
働くことに対する意識も、ほとんど変わっていない。「今後の変化として、仕事に重きが置かれなくなること」という項目に対し、「良いことだ」と答えた国民の割合が30年間でどう変わったかをグラフにすると<図1>のようになる。時系列データが得られる、他の主要国との比較もしている。
日本の回答は80年代の初頭とほぼ同じだが、他の3カ国では、仕事に重きを置かない意識が強まっている。スウェーデンは、15.6%から47.0%と3倍以上に伸びている。通常は社会の成熟に伴い、仕事一辺倒の価値観は薄れていくものだが、そのような国際的趨勢から日本だけが取り残されている。
『世界価値観調査』では、もっと多くの国のデータが分かる。2010~14年に実施された第6回調査のデータをもとに、国際的な散布図を描いてみよう。<図2>は、横軸に「良いことだ」、縦軸に「悪いことだ」の回答比率をとった座標上に、調査対象の60カ国を配置したグラフだ。英仏は調査に非参加のためデータがない。
左上は仕事を重視する社会で発展途上国が多いが、日本はここに位置して、異彩を放っている。社会の発展に伴い、どの国も左上から右下に移行していくものだが、日本は80年代の位置とほとんど変わっていない。他の先進諸国とは全く異なる、日本の特徴だ。
【参考記事】「女性のひきこもり」の深刻さと、努力しない人もいる現実
社会は成員が働くことによって成り立つので、仕事重視の考えは結構だが、日本はそれが極端に過ぎる。働き方でも、高いクオリティを伴う長時間労働が求められる。小売店の24時間営業や宅配便の無料再配達などが当然のこととされ、働く人を追い詰めている。
労働力人口の減少(少子高齢化)により、このシステムがいつまでも続かないことは明らかだ。不要な過剰サービスをなくし、「ゆるい」働き方を普及させることが必要ではないだろうか。例え生活の利便性が多少落ちたとしても、働く人の精神疾患や過労自殺が頻発するような社会よりははるかにいい。成熟を遂げた日本社会が、どちらの方向を目指すべきなのかは明らかだ。
<資料:『世界価値観調査』>
舞田敏彦(教育社会学者)
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