トランプが煽った米ロ・サイバー戦争の行方
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月18日 20時0分
これはロシアにとっては嬉しい発言で、クリントンが大統領になるよりトランプが大統領になったほうがロシアには断然有利になる。プーチンがトランプに手を差し伸べたくなるのは当然だろう。
つまり、国家が敵対する相手国にサイバー攻撃を仕掛け、電子メールや機密や内部書類を盗むことで、選挙活動を妨害する行為が実際に行われたのだ。これが可能ならば、さらにこんな懸念も出てくる。
【参考記事】常軌を逸したトランプ「ロシアハッキング」発言の背景
例えば、米民主党や共和党に限らず、日本の政党なども、自分たちのネットワークや幹部が使うパソコンが狙われ、ハッキングなどで内部の情報が盗まれて、暴露される危険性もあるだろう。そうした情報の中に、党関係者に報告された所属議員の極秘スキャンダルの詳細が記されていればどうなるか。選挙前にスキャンダルが暴露されれば、選挙結果に多分に影響する。日本を例にしても、中国や北朝鮮などがサイバー攻撃で情報を日本から盗んでリークしたら、日本政治に多大な影響を与えることになる。
今回のロシアの攻撃は、世界が直面するこうした新たな脅威を見せつけている。
ただアメリカも黙ってはいない。サイバー空間を通して米ロに不穏な雰囲気が漂うなか、10月からはロシアのプーチン側近に対するハッキング攻撃や、DDos攻撃(分散サービス拒否攻撃=複数のマシンから大量の負荷を与えてサービスを機能停止に追い込む)が繰り広げられた。これらのサイバー攻撃の背後には、アメリカの存在があると見られている。
アメリカ側からのこの動きに対して、今後ロシアがどう出るのか注目されている。だが実は今、トランプが大統領選に勝利したことで、さらに別の懸念が浮上している。トランプの側に肩入れしてサイバー攻撃を行なったプーチンの責任を、「トランプ大統領」が追及しない可能性だ。
そうなれば、すべてはうやむやになってしまうかもしれない。そして、この脅威は着実に世界に拡大し、同様のケースが世界のどこかで起きることになるだろう。
【執筆者】
山田敏弘
国際ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などで勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で国際情勢の研究・取材活動に従事。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)。現在、「クーリエ・ジャポン」や「ITメディア・ビジネスオンライン」などで国際情勢の連載をもち、月刊誌や週刊誌などでも取材・執筆活動を行っている。フジテレビ「ホウドウキョク」で国際ニュース解説を担当。
山田敏弘(ジャーナリスト)
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