「トランプ大統領」を喜ぶ中国政府に落とし穴が
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月22日 11時0分
<まるで「同類」のトランプ当選はあらゆる面で中国共産党に有利......ただし保護貿易でアメリカ経済がコケたら中国も無事ではいられない>
米大統領選でドナルド・トランプが勝利したことは人権やアメリカの世界的リーダーシップや報道の自由を重視する人々にとっては惨事だが、逆に中国にとっては勝利といえる。政府の中枢機関である中南海は祝勝ムードに沸いていることだろう。
中国の勝利は大きく分けて4つ。第1はもちろん地政学的勝利だ。経験豊かで人権問題や領土領海問題において中国を非難してきたクリントンと違い、トランプはテレビでは有名でも政治は素人。中国が核兵器保有国という認識は薄いようで、韓国や日本などアジアの同盟国から「必要経費」を取ると約束し、防衛のパートナーとしての信用を損なってきた。
米中どちらに付くか決めかねているベトナム、ミャンマー(ビルマ)、フィリピンは中国側になびくだろう。アメリカとの結び付きが特に強い台湾、韓国、日本は、アメリカの核の傘を当てにできなくなって他の選択肢(自前の核抑止力を持つなど)を真剣に検討し始め、中国との新たな火種になりかねない。
【参考記事】習近平・トランプ電話会談――陰には膨大なチャイナ・ロビー
台湾は今年5月に民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)が総統に就任して以来、中国からの批判にさらされてきた。アメリカの庇護が当てにできないとなれば、完全に孤立した気分になるはずだ。
第2に民主主義に対する権威主義の勝利。トランプのような政治経験はゼロだが民衆の扇動は得意な人物が指導者に選ばれるような選挙制度など、中国では言語道断。中国の指導者は慎重に選ばれ、教育され、後押しされ、中国共産党内で徐々に経験を積んでトップに上り詰める。
第3に人権問題をめぐる勝利だ。アメリカが年次報告書で中国の人権侵害の深刻さを糾弾しているのに対抗して、中国もアメリカの人権状況に関する年次報告書を発表。警察によるマイノリティー差別から賃金の男女格差まで、アメリカの痛いところを突いている。今後トランプ政権下で、アメリカの偽善を攻撃する材料は増える一方だろう。トランプは白人の愛国主義団体と密接な関係があり、公民権を骨抜きにしかねず、支持者と共に報道の自由を攻撃している。
グローバル経済の両翼
そもそも人権問題でトランプ政権から圧力をかけられる心配すらないかもしれない。トランプはイラクのフセイン元大統領からロシアのプーチン大統領まで独裁者をたびたび称賛し、外交での孤立主義を主張している。新疆ウイグル自治区での(さらに香港でも)中国による弾圧に目をつぶる可能性がある。
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