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紅白、のど自慢...NHK娯楽番組の基礎を創った「大奇人」

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月25日 12時14分

 本書の構想は10年ほど前からあったが、実際に資料を集めるなど動き出したのはこの2年で、担当編集者の励ましとサントリー文化財団からの研究助成のおかげで一冊にまとめることができた。

――本書でも触れられているNHKの番組の「素人っぽさ」とは何だろうか。

 本書に詳しく書いたが、丸山鐵雄は「リベラル」だけで語れる簡単な人間ではないものの、戦前戦中の表現規制や情報統制を苦々しく思っていた。そのことが「プロ」ではなく「素人」を出演させ、大衆の本当の声を全面に出す番組を作った背景にある。

 丸山鐵雄自身も管理職として「紅白歌合戦」に関わっていたが、主導的な役割を果たした素人による「のど自慢」の方に強い思い入れがあったようだ。「紅白歌合戦」を本当はどう思っていたのか、今こそ聞いてみたいと思う。

 というのも、実は私自身、出演者の「素人っぽさ」にこそ強みがあり、「紅白歌合戦」よりも「のど自慢」の方が娯楽番組としては生き延びると考えているからだ。

【参考記事】大みそかの長寿番組が映し出す日本の両極



――本書では、記者やプロデューサー、ディレクター、編集者など「組織の中で表現の仕事をするサラリーマン」のことを〈サラリーマン表現者〉と呼んでおり、副題にも「〈サラリーマン表現者〉の誕生」とある。

 NHKでディレクターとして番組制作にたずさわっている頃、サラリーマンとして表現者であり続けることは難しいと感じていた。本書でも丸山鐵雄に表現者としての限界があったことを書いたつもりだ。しかし、NHKを退職し、「筆一本」で活動していくなかで、そこにも表現者としての限界があるということを私は痛感することになった。

〈サラリーマン表現者〉を褒め言葉と受け取る人はほとんどいないだろう。しかし、表現者に限らず、組織にいるからこそ可能な仕事があるという意味では、必ずしも侮辱語にはならない。

 ただし、インターネットなど新しいメディアの登場で、奇しくも丸山鐵雄が入れ込んでいた素人も表現者になれる時代になった。〈サラリーマン表現者〉が〈素人表現者〉とどう付き合い、どう取り込んでいくのか――または取り込まれるのか――は、テレビ、新聞、書籍などの旧メディアの今後にさらに影響を与えると考えている。


『娯楽番組を創った男――
 丸山鐵雄と〈サラリーマン表現者〉の誕生』
 尾原宏之 著
 白水社


尾原宏之
1973年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。日本放送協会(NHK)勤務を経て、東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。現在、立教大学兼任講師、サントリー文化財団鳥井フェロー。


ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


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