リゾート地の難民キャンプに至るまで──ギリシャ、レスボス島
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月5日 16時45分
俺たちは難民キャンプを管轄する行政からの、取材申請への返信を待ったまま、来てしまえば彼らもむげにはしまいと祈るような思いでレスボス島へ渡っていたのだった。
ともかく、とホテルの従業員たちに俺は話を聞いて時間を過ごした。食堂を囲む広いベランダに出て、ある眉毛の濃い女性は海を指さしながらこう話した。
明るい女性従業員。オーナー家族だろうか。
「去年はすごかった。女性や子供もたくさん舟に乗って、そこの海に集まって来たの。あれは本当に悪夢だった。彼らはもうどこかへ行ってしまったけれど」
彼女は難民の方々の行き先を知らないかのように言った。俺は別の質問をした。
「観光にも影響が出たんじゃないですか?」
「そうね。七割くらいお客さんは減ったわね。国連の保障がないと大変。でも来年は元に戻るわよ」
目の黒々とした明るい女性は自分もまたビーチで遊ぶようなリゾートファッションで、そう展望を語った。
その間、ニコラスは出てこなかった。
行ってみるしかない
十時半、いずれにしてもいったんMSFのオフィスに向かってみることになった。
すぐにタクシーを呼んでもらい、十数分後俺たちはニコラスのいたホテルをあとにした。
ほど近い、城のふもとの小さな村でいったん車を止め、谷口さんは銀行で金をおろした。まさかタクシーで往復二時間半以上を移動するとは思っていなかったからだ。郵便局みたいな感じの銀行のそばでうろうろしていると、土地を離れたことのなさそうなおじいさんたちが好奇心を抑えながらこちらを見るのがわかった。ギリシャの田舎そのものという場所に、いきなり異国から難民が数万人やって来た時、彼らはどう反応したのだろうかと思った。
村と城。まるでドラクエの世界だ。ここに難民が押し寄せた。
ただ、おじいさんたちは露骨に俺を見るわけではなく、そこにある上品さがあるのが感じられた。考えてみれば、彼らは大昔から海の向こうから来る者と交流しているはずだった。歴史が彼らを鍛えているのかもしれなかった。
村からは、岩と褐色の土で出来た岡の横を通り、オリーブ畑を通り、小山を越えてひたすら南へ移動した。途中の町の角に青年がいるので道を聞くのかと思いきや、何か小さな袋をドライバーのおじさんは受け取った。
「速達だよ」
とドライバーは言った。せっかく港町に行くので運搬を頼まれているのだった。
タクシーはそこからカッローニという大きめの町を目指した。山を行くと松林で道路が松かさだらけだった。オリーブが点々と生える向こうに白馬がいた。奇妙な夢のようだった。
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