トルコのロシア大使が射殺される。犯人は「アレッポを忘れるな」と叫ぶ
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月20日 13時30分
アレッポにはトルコマン人と呼ばれるトルコ系住民が多く住む地域もあったが、11月末の時点で、トルコマン人が支配していた地域は空爆によってほぼ壊滅したと報道されている。12月20日時点で、アレッポはほぼ体制派に制圧され、それに伴いアレッポから大量の難民が反体制派の管轄する地域などへ逃れている。一部の難民はトルコのハタイ県にも流入している。シリア難民約278万人が滞在しているトルコは、現在、世界最大の難民受け入れ国となっている。
事件後の対応
事件を受け、トルコのメヴルット・チャヴシュオール外相は、事件を強く非難するとともに、ロシアのラブロフ外相と電話会談を行った。プーチン大統領は、事件を「シリアにおけるトルコとロシアの友好的な関係を傷つけるものだ」とし、事件をテロと断定し、実行犯の背後に誰がいるのかを明らかにする必要があると述べた。エルドアン大統領も事件を強く非難し、ロシアとトルコが対テロ戦争で協力を強めることでプーチン大統領とも合意していると発言している。以前のコラムでも触れたように、昨年の11月24日のロシア機撃墜事件により関係が悪化した両国だが、今年の6月28日に関係改善で合意し、その後、良好な関係を構築してきた。
【参考記事】トルコはなぜシリアに越境攻撃したのか
12月20日にはシリア情勢に関するロシア、トルコ、イランの3ヵ国外相会談がモスクワで行われる予定であり、そこではアサド政権の今後、アレッポ市民の避難、体制派と反体制派の会合の実施などが話し合われる予定である。また、フィキリ・ウシュク国防大臣も同日、ロシアの国防大臣と会談予定である。チャヴシュオール外相とイランのザリーフ外相はアレッポの情勢に関してここ5日間で17回に渡り電話会談を行うなど、緊密に連絡を取りあっている。シリアにおいて反体制派を支援しつつも、ロシア、イランと良好な関係を維持するトルコは、アレッポの情勢を緩和することができるアクターとして、仲介者の役割を果たすよう努めている。
ISの「本陣」であるラッカでの戦いを前に、アレッポにおけるアサド政権と反体制派の争いが激化し、ラッカで体制派と反体制派、そして体制派を支援するロシア、イラン、反体制派を支援するアメリカ、トルコの足並みが揃わないことも危惧されている。加えて、トルコはアメリカとロシアが支援するクルド系勢力と敵対関係にある。シリアをめぐる事情は複雑である。今回の駐トルコロシア大使の銃撃事件は、現時点では何らかの組織が絡んだテロなのか、ローン・ウルフ型の事件が詳細は不明であるが、シリア内戦の国際化がますます強まり、周辺諸国や関与する諸国に大きな影響を与えていることだけは改めて明白となった(2016年12月20日日本時間午前11時脱稿)。
事件直後の現場の写真 Sozcu Newspaper-REUTERS
アルジャジーラ(カタールの衛星テレビ局)による、事件発生時の様子を捉えた映像。YouTubeから
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
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