ジャカルタ州知事選に乗じる政治・社会の混乱とテロに苦悩するインドネシア
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月22日 19時30分
12月21日、インドネシアの首都ジャカルタ南郊の静かな村で突然銃撃戦が勃発、国家警察対テロ特殊部隊は反テロ法違反容疑者の男性3人を射殺、1人を逮捕した。4人は警察署を狙った爆弾テロを計画していたという。クリスマス、年末年始を前にしてジャカルタ市内は警戒警備が厳重になり、緊張感も高まりつつあり、地中のマグマが熱せられ噴火も間近の火山のような熱い空気が漂っている。
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ジャカルタは来年2月15日に投票が行われるジャカルタ特別州知事選の選挙キャンペーンの真っ最中なのだが、元来のお祭り好き、選挙好きというジャカルタっ子の性質に加えて、最有力候補だった現職のバスキ・チャハヤ・プルナマ州知事(通称アホック)の「イスラム教を冒涜した発言」に端を発した宗教論争が火に油を注ぎ、知事選対立候補の親である元大統領をも巻き込んだデモや集会、騒乱状態などが相乗効果を生み、社会全体が不安定化している。それは「まさに噴火前の状態」で、では「噴火」にあたるのが現在進行中のアホック被告の裁判の判決にあるのか、過激派によるテロにあるのか、はたまた12月2日に未然に摘発され事なきを得た「クーデーター未遂」を画策した反政府勢力の動きにあるのか、誰も確かなことはわかっていない。それでいながらバレエ音楽「ボレロ」のように、一定のリズムを刻みつつ緊張が膨れ上がっているのだ。
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宗教冒涜罪に問われた知事
「イスラム教を冒涜する発言をした」として「宗教冒涜罪」に問われているアホックは12月13日の初公判で「イスラム教を冒涜したりイスラム指導者を侮辱する意図はなかった。こうした罪に問われること自体がとても悲しい」と述べ、涙をみせた。その姿をテレビで視聴したジャカルタ市民は同情と哀れみを共有した。ところが裁判所近くで「有罪判決」「即刻逮捕」を声高に訴える白装束の急進派イスラム集団にはアホックの流したのは「偽りの涙」にしか映らなかった。
【参考記事】ISIS化するジャカルタのテロ攻撃
アホックがスマトラの小さな島の出身者で中華系インドネシア人、キリスト教徒であることから、国民の多数を占めるイスラム教徒の潜在的な反キリスト教心情、インドネシア人の反中国系感情、ジャワ島出身者の地方出身者への差別感情などをフルに利用して煽りたてる急進派イスラム集団のアホック攻撃が今回の騒動のそもそもの発端だった。アホックの対立候補として息子が出馬しているユドヨノ元大統領や対立候補支持政党を率いるスハルト元大統領の女婿、プラボゥオ党首らの政治勢力がこうした知事選の「異例の盛り上がり」に便乗して「アホック知事の支持政党で与党の闘争民主党」さらに「闘争民主党出身のジョコ・ウィドド現大統領」に揺さぶりをかけることで混乱が複雑化しているのだ。
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