1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

『アイヒマンを追え!』監督が語る、ホロコーストの歴史と向き合うドイツ

ニューズウィーク日本版 / 2017年1月5日 15時40分

 もう1つ、バウアーは33年に政治犯として強制収容所に収容され、政治的な転向書に署名した。ナチスに一度屈したという思いがあったのだろう。その後は49年まで亡命しており、安全な地から友人や家族が殺されていくのを見ていた。その罪悪感も、信念を曲げずに闘い続けた原動力の1つだったかもしれない。

 重要なのは、バウアーを動かしたのが復讐心ではなかったこと。民主主義的な価値観と人道的な理念のためだった。

――バウアー役について、クラウスナーとはどんな話をしたか。

 バウアーは強い個性の持ち主で、ボディランゲージと口調がかなり独特。常にぴりぴりしていて、チェーンスモーカーで......。僕らが考えたのは、それをどこまで再現するかということ。作品の全体的なトーンにも関わってくるからね。

 大切なのはディテールだった。例えば彼の家系は2世代前にドイツにやってユダヤ人だが、非常にドイツ人らしい話し方をする。中上流層のユダヤ系ドイツ人はドイツらしい言葉や文化を持ち、ドイツを心から愛していた。共生していたドイツ人とユダヤ人をナチスが分断したという歴史を考えても、バウアーがドイツ人らしいアクセントで話すことは重要だった。



当時は犯罪とされた同性愛の問題もテーマになっている © 2015 zero one film / TERZ Film

――ナチスの犯罪を裁くフランクフルト・アウシュビッツ裁判(63~65年)でバウアーは原告団を率いた。半年ほど前に94歳の元ナチス親衛隊員に禁錮5年が言い渡されたように、今でもナチスの犯罪に対する裁判は続いている。

 強制収容所の元看守ジョン・デミャニュクが懲役5カ月になった、2011年の画期的な裁判がある。このとき初めて、強制収容所に関与した者は高官でも看守でも、自ら殺人行為を行っていなくても殺人罪に問えることが認められた。それはアウシュビッツ裁判でバウアーが判例にしようとして、かなわなかったことだ。

 アウシュビッツ裁判からこれだけの時間がかり、責任を問われなった人がたくさんいたことは悲劇だと思う。今日まで、知識階級層のホロコースト責任者たちは1人も殺人罪で起訴されていない。

――あなたはアイヒマンの裁判を同時代では経験していない。当時を知らないから難しかったこと、反対に良かったことはあるか。

 バウワーの時代は、自分にとって遠いものではない。両親の青春時代がこの映画の舞台の時期で、両親や祖父母の話から時代の雰囲気なども分かっていた。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください