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トランプ襲来で今年もオスカーは大揺れ?

ニューズウィーク日本版 / 2017年1月11日 11時0分

観客の受け止め方も変化

 このままいけば大丈夫――そんな楽観ムードが漂い始めた矢先、トランプの出現で状況は一転した。候補者や受賞者の人種のバランスが過剰に注目されるだろうし、新大統領への辛辣なジョークが物議を醸す可能性も高い。



『フェンス』でワシントンが演じる中年男性トロイはこう語る。「人を寄せ付けないためにフェンスを建てる者がいる。その一方で、人をとどめておくためにフェンスを建てる者もいる」。メキシコとの国境に壁を建てると豪語するトランプを思わせるこのせりふが、授賞式で引用されないはずがない。

 トランプが大統領に選出されたことで、人々の受け止め方が変わった作品もある。例えば、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺後の妻ジャクリーンを描いた『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(主演のナタリー・ポートマンはノミネート有力候補の1人)。これほどまでにリベラル派の喪失と苦悩を感じさせる作品になるとは、誰が予想しただろうか。

 地球外生命体との接触を描いたエイミー・アダムス主演の『メッセージ』も、思った以上に観客の共感を呼ぶようになった。作品で描かれている宇宙船の外では「世界が恐怖とパニックに陥っている」と、ニューヨーカー誌のジア・トレンティーノは評している。そして宇宙船の内側には「寂しさ、言葉では説明できない感覚、そして強さがある」。

 これはまさにいま多くのアメリカ国民が感じていることだ。まるで惑星間軌道から外れてしまい、目覚めたらどういうわけか火星にいたような感覚だ。

【参考記事】「言語の絶滅」で失われる世界の多様性

 授賞式は大統領就任式のおよそ1カ月後に行われる。当日、どんなに自分が笑いのネタにされても、トランプはおとなしくしていられるだろうか。

 司会を務めるのはコメディアンのジミー・キンメル。9月にエミー賞授賞式の司会をした際には、トランプを皮肉るネタを連発して会場を大いに沸かせた。アカデミー賞でも容赦はしないだろう。

 16年の授賞式当日、トランプはツイッターも使わず、らしくないほど沈黙していた。しかし翌日にはFOXニュースに電話出演し、『レヴェナント:蘇えりし者』で監督賞を受賞したメキシコ人監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥに言及。「メキシコにとっては素晴らしい一夜だっただろうさ。思わず『彼は何なんだ? お宝を全部持ち去ろうとしてるじゃないか』って言ったよ」と不満をぶちまけた。

 もっともハリウッドのリベラル派にとって、自分たちの動向を気に掛ける共和党の大統領が誕生することは、そう悪いことではないかもしれないが。

[2017.1.10号掲載]
トム・ショーン、佐伯直美(本誌記者)


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