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なぜアメリカの下流老人は日本の老人より幸せなのか

ニューズウィーク日本版 / 2017年1月12日 6時31分

【参考記事】アメリカの貧困を浮き彫りにする「地理学」プロジェクト

 そこには、日米両国の貧困対策に取り組む姿勢と公的支援の中身の違いが現れていると著者はいう。

 先に触れたように、米国には国民皆保険や公的介護保険がないが、もし下流に転落した場合は最低限の支援を受ける体制が整っている。ここが日本との決定的な違いだということである。では、日本はどうなのか? ご存知のとおり、この国は国民皆保険や公的介護保険が整っており、"本来であれば"高齢者も安心して暮らせるようになっているはずだ。

 ところが現実は異なり、生活苦の不安やストレスなどで追い詰められてしまう人が多い。本書の第四章にも、孤立したあげくにひとりで亡くなり、死後何週間も発見されないまま腐乱していく老人の話が登場するが、それはとても身につまされるものだ。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

 生きていられる人についてもそれは同じで、たとえば以下は、生活困窮者への支援活動をしているNPOのスタッフの話である。



「明日家賃の支払い日だが払えないとなると、"どうしたらいいんだろう、この年でアパートを追い出されて、病気もあるし......。どこで保護してくれるんだろう"と追い詰められてしまう。"こうなったら、刑務所に入るしかない"と思いつめ、コンビニなどで強盗しようとナイフをちらつかせたりする。でも、本気で相手を傷つける気はないから、未遂に終わることが多いのです」(177ページより)

 あまりに切ない話だが、こうしたことが起こるのは、生活苦で追い詰められた人が人間らしく生きるために必要な支援を受けられる体制が整っていないからではないかと著者は指摘する。生活保護の制度こそあるものの、それを簡単に受給できるシステムになっていないということで、なんとも矛盾する話だ。

 そこで著者は生活保護の手続きなどについて、さまざまな提案を行なっている。それらはたしかに有意義なものなのだが、明日も生きていかなければならないという現実が人々の眼前にある以上、それより先にすべきは「老後破産」に追い込まれないためには個人として何をすべきか、どのような蓄えをすればよいかということであるはずだ。事実、著者もこの点を強調している。

 それによれば、1つ目のポイントは生活保護の使い方をよく理解すること。日本において生活苦を抱える下流老人が頼れるのは生活保護だけなのだから、その仕組みをよく理解し、いざというときに使えるようにしておくべきだという。

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