中国潜水艦マレーシアに初寄港──対米戦略に楔(くさび)、日本にも影響
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月12日 13時0分
海自の潜水艦専門家によれば、「南シナ海には米海軍の潜水艦をはじめ海軍艦艇が「航行の自由作戦」と称して遊弋(ゆうよく)している。その現状に楔(くさび)を打ち込むのが目的ではないか」と、この専門家は言う。特にドナルド・トランプの米大統領就任を直前にしたアメリカの、権力の間隙を狙った可能性を指摘する。
米海軍への挑発と警告
さらに12月25日からは中国海軍初の空母「遼寧」が九州南端から沖縄、南西諸島、フィリピンを結ぶ第一列島線を越えて太平洋に進出、その後南シナ海を航行、海南島を経由しながら艦載機の離発着訓練を繰り返し、年明けの1月11日には台湾海峡を通過するなどの「示威行動」を続けていた。
【参考記事】トランプは「台湾カード」を使うのか?
空母「遼寧」と潜水艦「長城」の動きは「当然深くリンクしている」(中国ウォッチャー)。通常空母が行動する場合は対空、対潜戦闘能力が不十分なことから、周囲を警戒する駆逐艦や潜水艦を同伴するのが通常だからだ。
こうしてみると、今回の潜水艦「長城」の行動と寄港は「インド洋」「南シナ海」という二つの海域でインド海軍、米海軍に対する「挑発と警告」という意味が込められていたとみるのが妥当だという。
米・ASEAN関係は日本にも影響
さらにもう一つ見逃せないのが、寄港したのがマレーシアの港湾であるという点だ。マレーシアは南シナ海で中国と領有権争いを抱えるフィリピン、ベトナムとともに東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国である。しかし、マレーシアのナジブ首相は自らの不正蓄財問題で米政府から厳しい対応を求められている。このため昨年10月末に訪中して習近平国家主席と首脳会談に臨み、多額の経済援助を受けて南シナ海問題では中国の側につくなど急速な親中国化の道を歩んでいる。
【参考記事】中国、次は第二列島線!――遼寧の台湾一周もその一環
【参考記事】マレーシア、南シナ海めぐり対中国戦略を見直しへ
今回の寄港は安全保障面、軍事面でもマレーシアがさらに中国寄りになったことを内外に印象付ける結果となった。ASEANはもともと親中国であるカンボジアやラオスに加え、昨年来の中国による「経済援助攻勢」が功を奏してベトナム、マレーシア、フィリピンまでが親中国あるいは「中国の理解国」へと舵を切っている。
空母、潜水艦による示威行動やASEAN加盟国の個別切り崩しの背景には、トランプ次期大統領の外交、安全保障政策の不透明さをにらんだ中国の戦略がある。
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