米メディアはなぜヒトラーを止められなかったか
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月19日 20時17分
<独裁者は、独裁という政策綱領を掲げて立候補するわけではない。民主的な選挙を勝ち抜いたからといって「正常」とは限らない。米メディアは、第二次大戦時の過ちを繰り返してはならない>
メディアは独裁者をどう報道すればいいのか。
立憲主義に反対で人種差別主義、おまけに暴力を煽る政治指導者が台頭したら、メディアはどう伝えるべきだろう。社会常識から逸脱しているとして糾弾すべきか。公正な選挙で選ばれたのだからそれは民意、即ち「正常」だと判断するのか。
イタリアとドイツでファシストが指導者にのし上がった1920~30年代に、大きな過ちを犯した米メディアが学んだ教訓だ。
独裁者の誕生
イタリアのべニート・ムッソリーニが3万人の武装した黒シャツ隊を引き連れてローマを進軍し、政権を奪取したのは1922年。1925年には独裁を宣言した。その動きはアメリカの価値観とまるで相容れなかったが、ムッソリーニは米メディアの人気者だった。事実、1925~32年の間に少なくとも150本の記事が掲載され、その大半が中立的な意見で、他も肯定的な論調がほとんどだった。
米誌サタデー・イブニング・ポストは1928年の5~10月にかけて、ムッソリーニの回顧録を連載した。高級紙ニューヨーク・トリビューンから地方紙のクリーブランド・プレイン・ディーラーに至るまで多くの新聞が、新しいファシスト運動は若干「手荒い」とはいえ、イタリアを極左の脅威から救い経済を立て直したと称賛した。米メディアにしてみれば、第一次大戦後のヨーロッパで急伸しつつあった反資本主義の方が、ファシズムよりはるかにたちが悪かったのだ。ニューヨーク・タイムズは、ファシズムを荒れ狂うイタリアを正常化する運動と評価した。
だが、少数ながらこれに反対するジャーナリストやメディアもあった。作家のアーネスト・ヘミングウェイやニューヨーカー誌は、反民主主義を標榜するムッソリーニによる正常化、という論調を拒絶。ハーパー誌ののジョン・ガンサーは、ムッソリーニがどれほど巧妙に米メディアを操作したかについて、鋭いルポルタージュを書いた。
ヒトラーは「ドイツのムッソリーニ」
イタリアでムッソリーニが成功すると、米メディアはアドルフ・ヒトラーのことも正常と認識した。事実1920年後半~30年代前半までは、ヒトラーのことを「ドイツのムッソリーニ」と呼んでいた。ムッソリーニが先に米メディアの認知を受けていたおかげで、ヒトラーは有利なスタートを切れたとわけだ。1920年代初めには少数政党に過ぎなかったナチスは、1932年の国会議員選挙で第一党になる大躍進を遂げた。
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