日中間の危険な認識ギャップ
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月23日 18時55分
しかし問題はマスメディアだけに限らない。二〇一四年一一月のことだったと記憶しているが、北京大学で国際会議が開かれた際、中国の元外交官が招かれてディナースピーチを行った。なんとそこで彼女は、「日本は戦争について中国に謝ったことがない」と述べたのである。会場に日本人は私ひとり。信じられない思いだったが、質問の手を挙げて追及したところ、どうやら本当に忘れていた様子であった。人間の認識は日々接する情報によって形作られるのだとしたら、中国共産党内を流通している情報の質に問題がある可能性は高い。
情報ギャップの解決には、直接交流に如くはない。相手の目を見て、気持ちを通わすことが重要だ。八月に行われた、日中のシンクタンクの交流会では、「相手の立場に立って考え、とにかく手を出さない」ことでコンセンサスに達した。その話を中国の別の友人にすると、吃驚して、「公共の場では合意できないだろう」と言っていた。強気になり、いきり立っている中国全体の雰囲気を変えるのは大仕事だ。少しずつでも公論外交を進めて、認識ギャップを埋めてゆかねばならない。
高原明生(Akio Takahara)
1958年生まれ。東京大学法学部卒業後、サセックス大学で修士号および博士号取得。笹川平和財団研究員、在香港日本国総領事館専門調査員、桜美林大学国際学部助教授、立教大学法学部教授などを経て現職。現代中国政治、東アジア国際政治が専門。著書にThe Politics of Wage Policy in Post-Revolutionary China(Macmillan Press)、『日中関係史1972─2012I政治』(共編著、東京大学出版会)、『シリーズ中国近現代史⑤ 開発主義の時代へ1972─2014』(共著、岩波書店)など。
※当記事は「アステイオン85」からの転載記事です。
『アステイオン85』
特集「科学論の挑戦」
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
CCCメディアハウス
高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)※アステイオン85より転載
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