トランプ乱発「大統領令」とは? 日本人が知らない基礎知識
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月2日 15時20分
歴史上これだけの乱発は珍しい?
ThisNation.comによれば、初代大統領のジョージ・ワシントン以来、すべての大統領が大統領令を活用してきた。1862年のリンカーンによる「奴隷解放宣言」(これも大統領令だった)から通し番号が振られており、現在までに1万3000を超えている。
ルーズベルトは第2次大戦中、日系人の強制収容を可能にする大統領令を出した。アイゼンハワーは公民権運動の高まりの中で、学校内での人種差別を阻止する大統領令を出した。ブッシュは9.11テロを受け、テロ組織が国内に持つ資産を凍結する大統領令を出した。歴史上、重要な大統領令はいくつもあった。
バラク・オバマ前大統領も2014年には、共和党が下院で多数を占める状況で政策を推し進めるべく、大統領令を活用する方針を一般教書演説で明らかにしていた。
数を見てもトランプだけが乱発しているわけではないが、選挙戦を経てアメリカ社会が分断している状況下で、賛否両論のある公約を実現すべく次々と出しており、それが今回、大統領令が目立っている一因だろう。
【参考記事】トランプを追い出す4つの選択肢──弾劾や軍事クーデターもあり
大統領令を無効にする方法は?
報道によれば、トランプの入国禁止の大統領令に対しては、人権団体に加え、ワシントン、ニューヨーク、マサチューセッツの3州が憲法に違反するとして無効を求めて提訴(2月1日現在)。不法移民に寛容な「サンクチュアリ・シティー(聖域都市)」の1つであるサンフランシスコ市は、聖域都市への連邦交付金を削減するという別の大統領令に対して、1月31日に訴訟を起こしている。
憲法違反を司法に訴える――。
もしも大統領令に反対だったり、従いたくなかったりした場合、他に方法はないのだろうか。何しろ議会での議論のプロセスを経ていないのに、法律と同程度の効力を持つのだ。
オンラインマガジン「クォーツ」の記事(1月31日付)によれば、大統領令が無効になるケースは3つある。1つは、裁判所が「違法」「違憲」という判決を出すこと。もう1つは、議会が大統領令を無効あるいは修正する法律を通すことだ。
ただし、議会の対抗策に対しては、大統領は大統領拒否権という権限を有している。大統領が拒否権により法案を差し戻した場合、議会は3分の2以上の多数で再可決しなければならない。
最後の1つは、大統領自身が大統領令を無効にしたり修正したりすることだ。実際に2月1日には、入国禁止の大統領令を巡り、永住権保有者は入国に際して今回の措置適用の免除を申請する必要はないとの見解をホワイトハウスが示した。
また、サイバーセキュリティに関する大統領令に署名予定だったが土壇場になってやめたと、英インディペンデント紙などが報じている。理由は定かではないが、そうした事例もあり得る。
しかしクォーツの記事は、大統領令が無効になる3つの方法はいずれも現実にはめったに起こらないと論じている。
めったに起こらないことが、今回どれだけ起こるのか。司法に訴えるという反乱はすでに始まっている。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
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