我慢は限界、シンガポール「親中外交」の終焉
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月3日 11時22分
だが習政権が覇権主義を強めるにつれて、シンガポールの態度も次第に変化してきた。スプラトリー(南沙)諸島など南シナ海のほとんどの領有権を強硬に主張する中国の尊大な態度に、シンガポールは初めからついていけなかった。ここに至って堪忍袋の緒もついに切れた感じだ。
今回の香港での軍用車両押収に対しても、シンガポールは強く反発した。それに対して、中国外務省は「『一つの中国』原則を固く守るよう求める」と、強気の姿勢を崩さない。
狭い国内に演習場を確保できないシンガポールは70年代から台湾で軍事訓練を展開してきた。これもリー・クアンユーと蒋経国が交わした約束の1つだ。シンガポール軍には中国を意識した作戦計画も、台湾にくみする戦略もない。演習で装甲車が使われたのも初めてではない。
「建国の父」の娘も批判
以前は中国も演習に理解を示し、「海南島を演習場として提供してもいいし、人民解放軍との合同演習も歓迎する」と、エールを送っていたほどだ。
だが昨年、習の盟友だった馬は総統の座から降り、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は「一つの中国」原則の受け入れを拒否している。台湾に対する習の敵意は、台湾との友好関係を重視するシンガポールにも向かっている。
1月初め、リー・クアンユーの娘リー・ウェイリンは「習の反腐敗闘争は政治的な報復にすぎない」と、公然と北京の最高指導者を批判。祖国の軍用車両が「抑留」されたことへのいら立ちだろうが、改めて両国の対立の根深さが露呈した。
差し押さえは中国の独善的な海洋進出に他国が批判的な態度を取ったことへの報復でしかない。華僑国家シンガポールの人心さえ得られない中国に国際社会で友人はいない。
【参考記事】何もなかった建設予定地、中国-ラオス鉄道が描く不透明な未来
楊海英(YANG HAIYING)
静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治区)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』等
楊海英(本誌コラムニスト)
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