マティス米国防相がまともでもトランプにはまだ要注意
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月7日 17時40分
<トランプとの首脳外交はロシアン・ルーレットのようなもの。運悪く弾が当たらないよう同盟国首脳はホワイトハウス以外の交渉窓口を求めているが、それは効果的なのか>
先週のジェームズ・マティス米国防長官による日本訪問は、ほぼ完璧な内容だった。安倍晋三首相と稲田朋美防衛相からは、日本が防衛費を自主的に増やし、新型の防衛システムの日米共同開発を目指す趣旨の発言を引き出した。日本政府の期待にも答えた。尖閣諸島はアメリカの日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲だと明言し、尖閣諸島への攻撃は日米同盟への攻撃とみなすと言質を与え、日本側を大いに安堵させた。
次の舞台は、2月10日に米ワシントンで開かれる安倍とドナルド・トランプ米大統領の首脳会談だ。安倍周辺は当初、トランプもマティスと同じ安心感を与えてくれるはずだと考えていた。尖閣諸島への安保条約第5条の適用や、沖縄に駐留する米海兵隊の基地移転問題、トランプが離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)に代わる新たな貿易交渉の必要性、対中政策でのさらなる連携などだ。安倍は11月17日に外国首脳として初めて大統領当選後のトランプとニューヨークで会談を果たし、友好関係を演出したことから、首脳会談でも良い流れが続くと見られていた。
大統領以外のルート開拓
だがオーストラリアのマルコム・ターンブル首相は最近、トランプとの電話会談でひどい屈辱を受けた。オバマ政権で合意した難民の受け入れの話をターンブルが持ち出すと、トランプが激怒して電話を切ったのだ。そのため日本政府は、トランプに逆手に取られそうな「頼みごと」を交渉のテーブルに置くのが本当に良いアイデアなのか、頭を悩ませている。例えば突如として、アメリカが日本を守るために米軍を駐留させるのと引き換えに、トヨタがメキシコ工場への投資をやめろとか、円高を容認しろなとど、ツイッターでの日本叩きそのままの要求を飲まされたら日本にとってとんだ災難だ。
アメリカの同盟国のなかでも特にアジア諸国は、新政権との対話を進めるのに2通りのルートで臨んでいるようだ。日本、オーストラリア、イギリスなど最も強固な同盟国には、ホワイトハウスとの深い結びつきが必要だ(安倍が首脳会談後にトランプとゴルフをするのもそのためだ)。だが今はそれだけではなく、外交や安全保障に関する現実の政策については、マティスやレックス・ティラーソン国務長官、それに共和党が多数派を占める議会などにもう1つの窓口に頼ろうとしている。
少なくとも現時点で、トランプと首脳レベルで付き合うのは、まるでロシアンルーレットをやるようなものだ。1980年代にはレーガン、コール西ドイツ元首相、中曽根康弘元首相、サッチャー英元首相が、最近では2000年代にブッシュ(子)元大統領、ブレア元英首相、ハワード元オーストラリア首相、小泉純一郎元首相が、蜜月ぶりをアピールした。世界の政治指導者が結束していた当時と比べると大きな後退だ。中国やロシア、イラン、北朝鮮の脅威を考えれば尚更だ。
一方でトランプは、混乱に乗じて支配する手法を改めて、今後はホワイトハウス内の厳格なやり方に変えるよう指示したとも報じられる。同盟国はしばらく様子見を決め込むだろう。やはり部下よりも、大統領本人とぴったり足並みを揃えられるのに越したことはないのだから。
From Foreign Policy Magazine
マイケル・グリーン
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