【写真特集】置き去りにされた被災者家族の願い
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月20日 18時0分
捜し続けた汐凪ちゃんが出てきてくれた日、木村さんに笑顔はなかった。「あんなにバラバラにされて、6年近くも置き去りにされていたと考えるだけでやり切れない。いっそ海に行ってしまっていたほうがよかったのかもしれない」と、木村さんは海のかなたを見つめて言った。
木村さんは大熊町で「娘を身近に感じる」ことを大切にしていた。だから体操着を見つけたときはうれしかったのだろう。しかしバラバラの骨が、ずっと野ざらしの瓦礫に埋もれていた現実を目にして、何よりも怒りが湧いたのではないだろうか。
私たちは、娘を捜すという小さな願いすら満足に聞き入れられなかった木村さんのような「少数」に犠牲を押し付け、それを見て見ぬふりをして豊かさを得る暮らしを続けている問題を、真剣に考えなければならないと思う。震災を経験し、誰もが「少数」になり得る現実を目の当たりにしたのだから。
汐凪ちゃんが発見されたのは、除染廃棄物の中間貯蔵施設をこの場所に整備する目的で、公的な瓦礫撤去が始まってからたった1カ月後のことだった。
全壊した自宅裏の丘には汐凪ちゃんたちのためにお地蔵さんやイルミネーションを設置した。一時帰宅は午後4時までなので、イルミネーションは無人の土地を照らしている(16年2月)
現在、木村さんは長女と共に長野県で電気に極力頼らない生活を送る。自宅には汐凪ちゃんと妻・深雪さんの写真が飾られている(15年2月)
天国にいる家族に見せてあげたいと、自宅近くの農地に菜の花やヒマワリを咲かせた。その農地も自宅も14年に、除染廃棄物の中間貯蔵施設の建設予定地に入った(16年5月)
汐凪ちゃんが通っていた学校で娘の机を見つめる木村さん。教室への立ち入りはできず、中は震災当日のまま(15年3月)
木村さんに協力して瓦礫の山を捜索する団体「福興浜団」。木村さんを筆者に紹介してくれたのは団体を主宰し、自らも南相馬市で家族の捜索を続ける上野敬幸さん(16年1月)
昨年12月11日にはあごの骨が見つかり、木村さんは5年9カ月ぶりに娘を自分の手で直接抱き上げた
積み上げられた瓦礫の山。点々と骨が見つかっている状況から、汐凪ちゃんは気付かれないまま瓦礫と一緒に運ばれたと考えられる(16年1月)
遺骨の一部を受け取った木村さんは岡山県にある深雪さんのお墓に汐凪ちゃんを連れていった(17年1月)
撮影:岩波友紀
1977年長野県生まれのフォトジャーナリスト。福島市在住。日本の全国紙のスタッフ・フォトグラファーを経て、現在はフリーとして東日本大震災と福島第一原発事故の取材も続ける。近著に写真集『1500日 震災からの日々』(新日本出版社刊)
Photographs by Yuki Iwanami
<2017年1月31日号掲載>
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[2017.1.31号掲載]
岩波友紀(フォトジャーナリスト)
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