北方領土の軍備強化に潜むアジア人蔑視の記憶
ニューズウィーク日本版 / 2017年3月22日 11時0分
2年前、極東のロシア連邦ブリャート共和国を訪れたことがある。首都ウランウデの空港は行きも帰りも中国人であふれていた。ほとんどが中国の東北3省からの出稼ぎで、まるで中国のどこかの地方空港のような錯覚すら覚えた。地元の科学アカデミーの研究者らによると、不法滞在者を含め、シベリア全体に約150万人以上もの中国人が進出しているという。
増え続ける中国人に対し、ロシア人はヨーロッパに回帰するかのように首都モスクワやサンクトペテルブルクなど西方への流出が止まらない。「いずれ帝政ロシアの東方進出以前のような時代に戻り、極東は中国の影響下に入る恐れがある」と、研究者らは深刻に捉えていた。
今や中国人はシベリアに流入した人以外にも、東北3省に約1億3000万人が暮らしている。かつて帝政ロシアはアジア人を「黄禍」と蔑視し日本と戦った。現在のロシアにとっては、中国人の存在が巨大な「黄禍」と映っている。
【参考記事】ロシアの「師団配備」で北方領土のロシア軍は増強されるのか
こうした緊張は中国にも伝わっているようだ。「一部の外国勢力は帝国主義時代と同じように、謀略によってわが国の発展を阻害しようとたくらんでいる」――昨年2月、このような扇情的な演説を行ったのは中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だ。
今年に入って、中国はこの演説を学習しようと繰り返し宣伝を始めた。それに続く東風41の配備。ロシアを極東侵略に駆り立てた黄禍論の記憶が、今またクリル諸島防衛に駆り立てているのかもしれない。
[2017年3月21日号掲載]
楊海英(本誌コラムニスト)
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