サウジ国王が訪問を中止したモルディブが今注目される理由
ニューズウィーク日本版 / 2017年3月22日 17時40分
さらに最近でも、首都マレからほど近い無人島が、50年400万ドルの契約で中国政府系企業にすでにリースされている。ここは中国が「真珠の首飾り」戦略で港湾施設を建築することになる可能性があると報じられている。
そんなライバルの動きにインドが警戒を強めていることは言うまでもない。ただインドにとって、モルディブには中国の存在以上に不安な要素がある。
実は、華やかなリゾート地として世界的に名高いモルディブでは、近年、イスラム過激派思想が高まりを見せており、多くの若者がシリアなどでIS(いわゆる「イスラム国」)の戦闘に参加している。その数は2300人以上と言われ、人数だけを見ると少なく感じるが、モルディブの人口が40万人しかいないことを考えれば深刻な数だということがわかる。またモルディブは最近、IS戦闘員のリクルート場所にもなっている。
この問題については、これまで自らもISのテロの標的になっているサウジアラビアも対策に乗り出し、サウジアラビアが主導的に進める34カ国による対テロ組織の軍事同盟に、モルディブも参加している。
【参考記事】近年最悪の緊張状態にあるカシミール紛争
モルディブから位置的にそう遠くないインドも、モルディブがイスラム過激派の巣窟になるのを恐れている。ヒンズー教徒が8割を占めるインドは、国内のイスラム教徒を軽視していると長く指摘されていて、イスラム過激派は基本的にインドを敵視している。
モルディブがイスラム過激派の温床になれば、テロリストが南部から海を通ってインドに上陸する可能性も考えられる。インドは過去に何度も、歴史的にライバル関係にあるイスラム教国の隣国パキスタンからテロ工作の被害を受けている。そこにモルディブのイスラム過激派勢力が加勢したり、協力したりすれば、インドにとっては死活問題になりかねない。
このようにモルディブは、サウジアラビアや中国などとの関係、そしてISの台頭により改めて注目されている。
そんなモルディブだが、実際にはこうした他国の思惑に巻き込まれている場合ではない事情もある。地球温暖化の影響で、今後100年以内に多くの島が消滅すると言われているのだ。まず何よりも、自国の存続に向けた対策を最優先にするべきだろう。
山田敏弘(ジャーナリスト)
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