困窮エジプトの無謀な宇宙開発
ニューズウィーク日本版 / 2017年3月29日 10時30分
食料や生活必需品の値上がりは庶民の暮らしを直撃している Mohamed Abd El Ghany-REUTERS
真の進歩を妨げる恐れも
多くの国民が自暴自棄になっている。10月中旬には、アレキサンドリアでタクシー運転手が物価高騰に抗議して焼身自殺した。あるトゥクトゥク(三輪タクシー)運転手が経済への不満をまくし立てる動画もネットに出回った。「写真の中のエジプトはウィーンそっくりだが、実際に街に出ればソマリアそっくりだ。役人がどうでもいい国家プロジェクトのカネ集めにかまけている間に、俺たちの教育水準はどん底だ」
宇宙局の新設もそんな国家プロジェクトの1つだが、過去には経済的恩恵をもたらせなかったものも少なくない。14年、シシ政権はスエズ運河拡張のために元の運河の隣に第2のスエズ運河を建設した。
その際、84億ドルの投資によって23年までに運河の通行料収入を年間130億ドルに倍増できると請け合った。だが現実には、昨年の毎月の収入は前年同期比で減少している。
宇宙開発はどの国でも政府の野心と資金を引き付けるものだが、エジプトはどうもこの分野が得意ではないようだ。10年には07年にウクライナと打ち上げた初の観測衛星「エジプトサット1」が制御不能に。宇宙開発ではめったにない失敗だった。
大学に投資し、研究を「縁故主義と検閲」から解放しない限り、政府がもくろむ人工衛星による景気テコ入れも期待外れな結果になりかねない。「エジプトの政治経済や治安を立て直すための、その場しのぎのダイエットのようなアプローチが、真の進歩を妨げてきた」と、カルダスは言う。
【参考記事】2117年までに火星都市を建設:UAEが計画発表
資源発掘という大義名分
エジプトも経済改革に取り組んでこなかったわけではない。昨年11月には変動相場制への移行とともに、燃料補助金の削減を実施。金融部門ではこの決定を支持する声が多かったが、ガソリンスタンドには値上げ前にガソリンを買おうとする消費者が詰め掛けた。補助金削減が長期的には成長を促すと期待する声は多かったが、世界銀行の予測では17年のGDP成長率は4%で、昨年の4.3%から減少する見込みだ。
ドナルド・トランプ米大統領と親しいシシは、米軍からの年間130億ドルの軍事援助の増額を期待している。だが人工衛星も大いに当てにしている。
「パン一切れか宇宙かを選べというのかと言われるが、人工衛星は資源発掘の手段だ」と、宇宙計画を監督するエジプト国立リモートセンシング宇宙科学機関(NARSS)を率いるモハメド・アデルヤヒアは言う。
この記事に関連するニュース
-
これぞ究極の「計画都市」...エジプトが進める「新・首都」のド派手で異様な光景
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月18日 17時37分
-
省庁再編を実施、新内閣が発足(エジプト)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月5日 1時40分
-
人道支援活動への資金が減少する中、国連世界食糧計画(WFP)は西アフリカの厳しいリーンシーズンに対処するための大規模な対策を開始
PR TIMES / 2024年7月3日 16時45分
-
ケニアで若者の怒りが爆発 反増税デモの背景「マイクロファイナンスの闇」とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月2日 14時47分
-
政府が新年度予算発表、IMF新規融資プログラム適用なるかに注目(パキスタン)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年6月24日 0時25分
ランキング
-
1「慰安婦」強制連行説は「日韓離間工作の道具」 韓国で像撤去を求める朱玉順氏が批判
産経ニュース / 2024年7月20日 20時26分
-
2ロ侵攻、化学兵器使用と相互非難 国際機関「深刻な懸念」
共同通信 / 2024年7月20日 15時20分
-
3キリスト教「福音派」トランプ氏を熱狂的に支持するワケとは?
日テレNEWS NNN / 2024年7月20日 21時25分
-
4トランプ氏銃撃、動機は不明 発生1週間、警備当局に批判も
共同通信 / 2024年7月20日 18時47分
-
5トランプ氏“暗殺未遂事件”で蔓延する“陰謀論”と“フェイク” 右派も左派も拡散の異常事態 深まる分断 米大統領選の行方は【報道特集】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月20日 21時30分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)