奨学金が地獄と化しているのは昔の奨学金とは違うから
ニューズウィーク日本版 / 2017年4月4日 18時17分
これは奨学金を利用して大学へ進学させた息子を、結果的に失ってしまった母親の言葉である。彼は「自分が返したお金で、次の世代の人たちが大学へ行けるのだから、責任を持って返さなきゃ」という思いから、正社員として働きはじめると、返済を欠かすことがなかったのだという。
ところが、1日に約22時間も働かされるような環境だったことから疲労が限界を超え、交通事故で命を落としてしまったのである。
では、奨学金を借りた結果、袋小路に追い込まれてしまった場合、どうしたらいいのだろうか? この問いについて、著者ははっきりと「必要な額だけを借りること。機関保証を選んで、困ったら自己破産を検討すること」と述べている。
借りる額を必要な範囲に限ることで返済の負担をできるだけ減らし、保証料は必要でも機関保証を選ぶことで保証人に返済義務を拡大せず、返済できなくなっても自己破産しやすい状況をつくっておくべきだというのである。
【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい
もちろん本来であれば、当人たちの自己防衛以前に、奨学金制度の抜本的な改革が必要だ。しかし、それだけでは不十分だというのだ。だから、奨学金制度見直しの議論と並行し、いま現在、奨学金制度で追い詰められている人を救済することが必要だという考え方である。
そこで本書においても後半のかなりのページ数を割いて、さまざまな救済手段が紹介されている。現時点で返済に困っている人、またはこれから奨学金を利用しようとしている人も、目を通しておいたほうがいいだろう。
学費と奨学金の問題は、もはや一部の人の問題ではなく、中間層にまで広がっています。そうであれば、最終的には、皆が能力に応じて負担を分かち合うことを目指すべきだと思います。しかし、本書で紹介したように、生活上の困難を抱える人がこんなにも増えてしまった状況では、これ以上の負担を求めることには無理があります。困難ある人をさらに追い詰めることにもなり、市民の合意も得にくいと思います。そこで、まずは実現可能な制度改革を優先させ、少しでも余裕を作ることから始めるべきだと思います。(215ページより)
私の息子は、この春に大学を卒業し、社会人になった。しかし大学進学に際しては、やはり奨学金を借りなければならなかった。本書で紹介されている人たちほど(現時点で)追い詰められてはいないとはいえ、そうしなければ進学させられなかったことには、親として申し訳なさも感じる。
しかしいずれにせよ、私がそうであったように、本書に書かれていることはまったく他人事ではないのだ。度合いこそ違えど、なんらかの形で大多数の親、そしてその子たちに関わってくる問題だということ。だからこそ、奨学金制度についてはきちんと知っておかなければならないのである。
『「奨学金」地獄』
岩重佳治 著
小学館新書
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。
印南敦史(作家、書評家)
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