食べつくされる「自撮りザル」、肉に飢えた地元民の標的に
ニューズウィーク日本版 / 2017年4月5日 15時56分
<ネットを賑わせた「自撮りザル」を覚えているだろうか。満面の笑みを浮かべるこのサルたちが今、食べ尽くされようとしている>
「自撮りザル」は、インドネシア中部のスラウェシ島北部に生息するクロザル。2011年にスラウェシ島を訪れた写真家のカメラを使い、ナルトと呼ばれるクロザルがシャッターを切った自撮り写真は世界中に配信された。
その後、この写真の著作権を巡って裁判沙汰になるなど、輪をかけて知名度を上げたクロザルが、食材にされ絶滅の危機に瀕している。複数メディアが報じた。
スラウェシ島にはサルを積極的に食べる習慣があるという。霊長類の保護団体「セラマタカン・ヤキ」のメンバー、ユニタ・シウィは、そもそもクロザルの生息地が縮小していることを指摘したうえで、「さらにここの人たちはサルを食べている」と、AFP通信に語った。
当局や動物保護の活動家は、スラウェシ島の住民に対し、絶滅危惧種のサルの捕食を止めるよう説得を重ねている。
犬肉のように美味しい
地元で貴重なタンパク源として重宝されるクロザル。ある住民は、AFP通信に対し「野生のイノシシや犬に似ている、スパイシーな味が好き」と話している。
地元の市場には、クロザル以外にもコウモリやイヌなどが並ぶ。最近は日本人や欧米人にとって馴染みのない動物の肉を「珍味」として食するツアーが組まれ、この取り引きが行われる闇市場は活況を呈している。
当局は取り締まりを実施しているが、「珍味」市場のベンダーは抵抗し、両者の衝突が続く。「珍味」を求める密猟者はクロザルを求めて狩猟エリアを拡大させている。
報道によると、国際自然保護連合(IUCN)は、クロザルを絶滅危惧種に指定し、保護を喚起している。また、クロザルは地元の珍味としてだけでなく、人間の居住地や農地の拡大に比例して生息地を追いやられているという事実も見過ごせない。
【参考記事】<写真特集>アフリカ野生動物の密猟と食肉売買の現実
【参考記事】グルメ食材が「絶滅」する日
生態系に影響も
スラウェシ島の自然生息地は凄まじいペースで減っている。1980年に300平方キロメートルあった自然生息地は、2011年には45平方キロメートルに激減。40年間で約8割以上減少したことになる。
クロザルの減少が生態系に及ぼす悪影響も懸念される。NGO団体のステファン・レンティは、「クロザルが種子を分散させ、樹木の生長を促す」と指摘している。
NGOや地方自治体は、教育機関に対し動物保護に関するカリキュラムを策定し提出するよう求めるなどの取り組みを始めた。同国はイスラム教信者が多いことで知られるが、キリスト教の教会では、人間が地球を守る立場として動物愛護を勧めるよう啓蒙活動が行われている。
しかしながら保護活動を進めても、住民たちが肉に飢えている事実は変わらない。ある者は、すでに生息地の喪失で減少するクロザルに、住民の飢えが重なり圧力がかかると警鐘を鳴らす。スラウェシ州で野生動物の保護に携わるサイモン・パーサーは、野生動物の捕食行為で「クロザルの絶滅が決定的になる」と語った。
【参考記事】国連報告「地球は既に限界点」
【参考記事】「不法移民防止の壁」で死にゆく野生動物
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
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