70冊以上の「トランプ本」から選んだ読むべき3冊
ニューズウィーク日本版 / 2017年4月13日 15時18分
著者は朝日新聞社のニューヨーク特派員。その取材力はさすがのものであり、「なぜトランプがこんなに強いのか?」という疑問に対してニューヨークなど都会の人々の取材で答えがみつからないとあれば、アメリカの田舎に向かう。「山あいのバー、ダイナー、床屋、時には自宅に上がり込んで」、丁寧にそして深く話を聞き出す手腕はすごい。その数、なんと14州150人。
特に、民主党の基盤でありながら、今回トランプ支持にまわる人が多く出た地域、通称「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれるエリアに含まれる5州の取材は、興味深いものだ。
「彼ら(ラストベルトの労働者たち)に「そもそもなぜ民主党支持だったのか?」と質問しても、「そんなこと考えたこともない」、「この街で生まれ育てば、みんな民主党支持だった」などと答える。」(本書から引用、括弧内は筆者補足)
「トランプは、専門家の予想を覆し、ラストベルト諸州で連勝したことで第45代大統領の座をつかんだ」のだ。(同上)
普段目にするメディアから得られる言説は、主に都市部の視点であることが今回の大統領選挙で明らかになった。だが、だからといって私たちには、アメリカの中西部の田舎に住み、その州からほとんど外に出たこともない「普通の」アメリカ人の声は、なかなか知りようもない。その意味で、150人もの「普通の」アメリカ人の声を、私たちの代わりに聞き取ってくれている本書は、その実態をつかめるものとしてだけでも、大いに意味のあるものだろう。
他の人の言説から分かったつもりになるのではなく、なるべく一次情報に近い情報から、自ら思考してみるためにも。他の本と合わせて、読んでおきたい一冊だ。
エスタブリッシュ層の捉えた、トランプの実像
4位 『トランプ』(文藝春秋)
冒頭にも述べたとおり、ワシントン・ポスト紙が3か月にわたって20人以上の記者を投入して記した、トランプの人物像に迫る本である。トランプの全人生をさまざまな資料や証言から読み解き、伝記の体裁で書き上げた書。原書は8月に発売されている(日本語の翻訳書は10月に発売) 。
前にあげた2冊は、トランプ自身というよりも、なぜトランプが注目されているのか、トランプが大統領となった後に世界はどうなるのか、そのようなマクロな視点から(情報源はミクロでありながら)記した本だった。一方この本は、トランプという「人物」の実像に迫るもの。両方合わせて読んでみると、違う解釈が見えてくるはずだ。
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