中国河北省の新特区は何をもたらすか(特大級のプチバブル以外に...)
ニューズウィーク日本版 / 2017年4月14日 13時12分
【参考記事】遼寧省(の統計)に何が起きているのか?
では雄安新区はいったい何をもたらすのだろうか?
正解は「渋滞や土地不足などの"大都市病"の緩和」である。大都市部に人口が集中すれば、水や電気、病院、学校などさまざまなリソースが不足し交通渋滞などの社会問題を引き起こすとして、中国政府は人口1500万人以上の超特大都市の人口を抑制する方針を打ち出している。中心部の人口を2014年比で15%減少させる方針を打ち出している。
また、副都心計画も以前から取りざたされていた。移転対象はどの省庁、どの部局か。どの大学が北京市から放逐されるかなどは何年も前から話題となっていた。目端の利く人間ならば、河北省雄県、容城県、安新県の一体が候補地になっていたことは知っていたはずだ。
ジョージ・W・ブッシュ米政権で財務長官を務めたヘンリー・ポールソン氏は2011年に米国と中国の経済、環境問題を解決するためのシンクタンク、ポールソン研究所(The Paulson Institute)を立ち上げたが、その活動の一貫として中国の副都心計画について習近平総書記と2014年7月に会談した。
詳細は同氏の著書『Dealing with China』(Headline Book Publishing、2015年)に記されているが、白洋淀や河北省保定市という地名が言及されている。また習近平総書記は首都の混雑を解消し周辺地区を発展させるためのプランとして、複数の都市を一体化させる"地域化"こそ、将来の成長を促進する鍵になるとの構想を明かしたという。
雄安新区は高速鉄道によって北京市、天津市まで1時間で移動可能だ。密接な交通網により巨大都市圏を作り上げる、日本の首都圏のような姿を構想しているということなのだろう。
「世界の工場」の礎となった深圳。中国の台頭を加速させ、「世界の市場」への転換を後押しした浦東新区。この2つと比べると、「大都市の混雑を緩和、郊外の都市化を推進」という目的はややインパクトに欠けるように思われる。
また、エドワード・グレイザーの『都市は人類最高の発明である』(NTT出版、2012年)が対面コミュニケーションこそがイノベーションの源泉だと指摘するように、巨大都市圏作りよりも、過密さを維持しつつも技術によって都市病を克服することこそが近年のトレンドではないだろうか。
その意味でも雄安新区の有用性には疑問符が着く。中国政府に懐疑的な人々からは鄧小平、江沢民と並ぶ政治的遺産を手に入れるための業績作りと揶揄されるゆえんだ。果たして巨費を投じて推進される「千年の大計」は何を生み出すのだろうか。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。4月下旬に『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)を刊行。
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
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