FBIコミー長官解任劇の奇々怪々 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2017年5月11日 17時0分
これは5月3日にコミーが議会で証言した際にあった、「本当にヒドい(really bad)」選択か「壊滅的な(catastrophic)」選択という(大変に有名になった)表現を、言い換えたものです。
要するにローゼンスタインは、ヒラリーを不起訴にしたのが不満なのではなく、10月末に新証拠(の可能性)が出た時に「大々的に発表して選挙戦を歪めた」ことを司法副長官として批判しており、そのことについてコミーが5月3日に議会証言して「自分は正しかった」としていることが大変に不満だ、だから解任を提案しているというのです。
奇々怪々としか言いようがありません。トランプ陣営からすれば、昨年の10月28日にコミーが「ヒラリーのメール疑惑の蒸し返し」をしてくれたから、自分たちは政権を奪取したという認識をしています。大統領自身が再三そのような発言をし、その延長でコミーを賞賛したことも何度もあります。
それにもかかわらずトランプ大統領は、その10月末のコミーの言動を批判して解任を提案したローゼンスタイン書簡を根拠として、コミーを解任しているのです。ちなみに、大統領の署名したコミー宛の「解任通告」書簡には、ローゼンスタインの書簡が「添付」されています。
一体どう解釈したらいいのでしょうか?
【参考記事】文在寅とトランプは北朝鮮核で協力できるのか
一つの考え方としては、やはりホワイトハウスとしてはコミーを解任しなくてはいけない、切羽詰まった「何か」があったのだということです。それは、やはり「選挙運動期間中の陣営とロシア政府の癒着」問題が相当に切迫していることを示していると思います。
この点に関しては、問題の大統領のコミー長官宛の「解任通告」書簡の中に、何とも不思議な文言が入っています。それは「私が捜査対象になったかもしれない機会において、貴官は三度にわたって自分を捜査対象としなかったことは賞賛する」という部分です。
解任通告をするのには、全く必要のない文言ですが、急遽レターを作った中でこういう字句に「ポロッとホンネが」出てしまった可能性はあると思います。つまり大統領としては「ロシア疑惑」の捜査が自分にまで及ぶのを恐れているということですし、きわどい局面が過去に3回あったということを告白しているようなものです。
100%断定はできませんが、この2日間のドタバタ劇を見ていますと、とりあえず今回の解任劇は「ロシア疑惑」の深刻化、そしてこの問題について捜査を進めていたFBIへの恫喝という流れで見ていくのが一番しっくり来るように思われます。
ローゼンスタイン書簡について言えば、これは当座のニーズに応えるということで、トランプ大統領、セッションズ司法長官を満足させる一方で、内容をよく読むと「10月末のコミーの言動を批判している」ことから、ヒラリー陣営にも「満更でもない」表現となっているわけで、この人は相当な策士なのかもしれません。
そんな中、疑惑の張本人であるマイケル・フリン前安全保障補佐官が「上院の情報委員会」からロシアとの癒着問題に関して召喚されるという決定が流れました。その一方で、事態の急展開に驚いたショーン・スパイサー報道官は、9日夕に報道陣の質問から「逃れようとした」失態を問われてホワイトハウスの定例記者会見から「外された」格好になっています。
トランプ政権の周囲はにわかに騒がしくなってきました。
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