トランプ降ろし第3のシナリオは、副大統領によるクーデター - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2017年5月16日 11時0分
ですが、問題そのものは「ニクソンが再選をかけた大統領選挙の結果について疑心暗鬼に駆られた結果、敵陣営の会話を盗聴すべくスパイを送り込んだ」ことと、その事件への「大統領の関与に関する隠蔽を図った」という、バカバカしいと言えばバカバカしい事件です。
ですが、仮に「トランプ陣営のロシアとの癒着」が証明されるとなると、これは大統領選において外国勢力と結託し、外国勢力の介入を許したという建国以来の大不祥事になるわけで、問題のインパクトはこちらの方が上だと言えます。
一方で、ウォーターゲート事件というのは、その発覚の時点で「民主党本部に潜入して盗聴器を仕掛けようとした」スパイは捕まっているわけで、「犯罪が立証されている」ところからのスタートでした。論点は「大統領の関与」と「大統領による隠蔽工作」の有無に絞られていったのです。
【参考記事】FBIコミー長官解任劇の奇々怪々
これに対して、今回の「ロシア疑惑」は側近による金銭授受がせいぜいで、大統領本人の関与や、ロシアとの癒着を立証するのはそう簡単ではありません。つまり正規の弾劾プロセスになると、相当に時間を要する可能性があります。
この2つのファクターを頭に入れて考えると、まず1つのシナリオは、このままズルズルとトランプ政権のままで中間選挙を迎えるという流れです。そうなると、中間選挙ではもしかすると「トランプ不人気」を受けて、民主党が大きく勢力を伸ばすかもしれません。
その場合は、2019年の新しい議会で、大統領への弾劾が始まる可能性が大きくなります。そうすると、2020年の大統領選挙へ向けて、共和党は常に守勢に立たされるわけです。だからと言って、民主党主導での弾劾の動きに共和党が即座に協力するわけにもいかないし、そもそも大統領を辞任させるのにスッタモンダすれば党のイメージダウンは加速、仮にペンス副大統領が政権を担うとしても求心力に傷が付きます。
2つ目のシナリオは、早期に弾劾のプロセスを開始するという流れです。ですが、その場合も民主党が団結している状態に、共和党の「アンチ・トランプ派」が乗っかる形となり、共和党として党勢回復は難しいでしょう。そもそも、大統領が頑強に抵抗して政局が流動化する可能性もあります。
そこで出てくるのが第3のシナリオです。弾劾ではなく、「合衆国憲法修正25条4項」を使って、副大統領と過半数の閣僚が「大統領の職務遂行不能宣言」を行うという「副大統領によるクーデター条項」を発動するのです。これはケネディ暗殺事件を受けて制定されたもので、とにかく副大統領と閣僚の過半数が署名すれば「大統領を職務停止に追い込める」というものです。
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