北朝鮮危機が招いた米中接近、「台湾化」する日本の選択
ニューズウィーク日本版 / 2017年5月25日 9時20分
ただそのアメリカは今、分が悪い。米中首脳会談で習を表面的に屈服させるほど強力な軍事力と経済力がありながら、トランプ政権では各省の局長級以上の8割程度がまだ空席。政策立案と執行が十分できていない。
そしてコミーFBI長官の突然の解任で、大統領弾劾さえささやかれている。共和党主流がその気になれば、弾劾手続きの開始と大統領の辞任もあり得る。共和党と民主党の泥仕合は最悪で、ロシアの識者は「暴君ネロやカリギュラ時代のローマ帝国の再来」と当てこするほどだ 。
振り返れば01年9月11日の同時多発テロをきっかけに、アメリカはアフガニスタンとイラクで開戦。一国だけで世界を差配し、自由と民主主義を力ずくでも広めることができると思い込んだ。人間と国家はおごれば反発を呼び、足元では内紛も高じて高転びするものだ。テロの黒幕ウサマ・ビンラディンは殺されたが、米国支配の打破という目標は実現するかもしれない。
【参考記事】トランプ政権のスタッフが転職先を探し始めた
アメリカの混乱を前に、米中のはざまで日本は揺れている。ただ今は、日米同盟破棄や対中接近に迫られる事態には至っていない。韓国が大統領弾劾中でも経済好調を維持したように、米経済も好調を続けるかもしれない。一方、中国経済は破綻ぎりぎりの綱渡り。5月中旬には北朝鮮がミサイルを発射し、「一帯一路フォーラム」で意気上がる中国の顔に泥を塗った。米軍はアジアで確固たる力を維持している。アジアが近代以前の中華秩序に戻ることはない。
それでもアメリカの内政紛糾と国際的指導力の麻痺はしばらく続く。日本は慌てずに経済の立て直しと、自前の防衛力の強化を続けていくべきだろう。
[本誌2017年5月30日号掲載]
河東哲夫(本誌コラムニスト)
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